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正宗精武門電影大全(四) 陳眞の実弟、その名は陳善!何宗道主演『精武門續集』

2010-12-29 00:53:55 | 作品レビュー
一昨日になりますが、江戸木純さんの「エデン」と「ハピネット」が配給した異色のゾンビ映画『コリン/LOVE OF THE DEAD』(08)を試写で観て来ました。この『コリン~』は制作費僅か45ポンド(!)という低予算の作品ながら、主人公の青年コリンが自らもゾンビとなりながらも、“生前”の記憶を頼りに愛する女性を求めひたすら彷徨う様を切なくも悲しく描いた作品です。確かに作品全体にはハイ・バジェット感は感じられませんが、ゾンビ映画の世界観を知り尽くしている監督のマーク・プライスがゾンビ映画の“お約束”的な見せ場を随所に詰め込んだ作品として見事な出来に仕上がっていますし、まさにゾンビ映画ファンは必見の作品だと思います。この『コリン/LOVE OF THE DEAD』は来年3月5日より、ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー公開との事です。

さて、「正宗精武門電影大全」第4弾は、邵峰導演、何宗道主演『精武門續集』(76)でいきたいと思います。本作はジミー・ショウこと邵峰が出品人と導演を兼任との表記がありますが、どうも実際の導演は李作楠か、邵峰&李作楠の聯合導演作品のようです。いきなり余談ですが、邵峰はアジア映画界の“極悪トラブルメーカー”として知られた人物で、その邵峰の数々の大罪の中でも有名なのが同じ何宗道主演作品『詠春截拳』(76)の“無断売却&無断改題事件”でしょう。
邵峰はこの暴挙で同作品の監製人である藍天虹から告訴されて裁判沙汰に発展していますからね(苦笑)。邵峰は他にも羅維やジミー・ウォングこと王羽相手にもやりたい放題だったようで、本当にマジで邵峰は超ヤバイ人だったんだよねえ・・って名前はかなり立派なんだけどなぁ、もう邵峰ってね(溜息)。
さて、ちょっと話が脱線しましたが(苦笑)、まずは何宗道主演作としてもベストであり、さらに数ある“精武門電影系列”においても屈指の名作である、この『精武門續集』の物語に触れたいと思います。
映画はあのブルース・リーこと李小龍が陳眞に扮した『ドラゴン怒りの鉄拳』(72)直後の上海から始まり、日本軍の銃弾に倒れた陳眞の悲しみの葬儀が画面に映し出されます。オリジナル版と同じ役柄で出演の大師兄(田豊)や李(李昆)、あるいは新たなキャストである龍方(故人)、岑潛波ら精武館の門弟たちが深い悲しみと共に葬儀に参列する中、李昆が陳眞愛用の黒のヌンチャクを陳眞の棺の上に置きますが、それを見た岑潛波が慌ててヌンチャクを取り上げると、“精武英雄”形見のヌンチャクを両手で抱き締めます!(ここはマジで泣ける!!)さらに陳眞の遺影(何故か『ドラゴンへの道』のリーさんの写真だぞ?)を抱きかかえた恋人の麗児(苗可秀ではなく別人)は、余りの悲しみに陳眞の棺の上に「わあああ!」とその身を委ねると、自らの腹部を鋏で刺しその場で自決!(唖然)いや~まさに衝撃の冒頭部分です・・!
そう、この『精武門續集』は他のソックリさん武打星を起用した凡百クンフー映画特有の“商魂オンリーの軽々しさ”や“李小龍をイミテーションする後ろめたさ”と言った佇まいは一切無く、そこにあるのは恩師霍元甲の仇を討ち雄々しく散った“精武英雄”陳眞に対する深い尊敬の念と、当時の中国人が失いつつあった自尊心と勇気の尊さを高らかに歌い上げる、まさに徹底したナショナリズムに満ち溢れた真正武打片なのである・・!
さて、日本軍は陳眞を失った精武館に追い討ちをかけるかのように、冷酷な武術の達人にして司令官である宮本(羅烈!)、さらに柳三郎(鹿村泰祥!)と佐藤丈(南宮勲!)ら2人の幹部を上海に着任させます。
宮本たちは直ぐに精武館を接収するべく襲撃をかけると、田豊を捕らえ酒着けの果てにアル中にしてしまいます。既に上海警察を去った羅探長(羅維)に代わって当地を収める陳探長(曹健。部下役に孫越)は、宮本に仕える狡猾な中国人通訳の王(陳慧樓)や宮本の部下(高飛や杜偉和)ら日本人たち、そして宮本一派に徹底的に弾圧される精武館の門徒たちの間に挟まれ苦悩しますが、そこに1人の青年が颯爽と姿を見せます。
青年は亡き陳眞の墓前で岑潛波を追い廻していた宮本一派を蹴散らし救出すると、青年は岑潛波に対して自分こそが陳眞の弟の陳善(何宗道)である事を告げるのでした・・!
この陳眞の実弟である陳善に扮する何宗道の毅然とした“中華英雄”としての姿は、他の何宗道主演作品とは全く異なるほどの凛々しさで、まさにこの『精武門續集』で何宗道が演じた陳善こそが何宗道にとってのベスト・パフォーマンスだと断言したいですね。特に映画の終盤で、精武館の門弟たちが身を寄せる寺院に柳三郎や佐藤丈らが襲撃をかけて来た際、そこに駆けつけた陳善に岑潛波が陳眞形見のヌンチャクを投げ与えると、そのヌンチャクを受け取った陳善が気迫漲る表情と共にヌンチャクを「ババッ!・・ババッ!ババッ!」と猛スピードで旋回させながら自分に襲いかかって来る日本人暴徒を次々と蹴散らす乱闘シーンは、まさに観る側も手に汗握る大興奮のファイト・シーンです。
さらに陳善は自分に身構える柳三郎に向かって鋭い視線を向けながらも、手にした亡き兄のヌンチャクを頭上の精武館の看板に向かって投げると、その“精武英雄”形見のヌンチャクはまるで精武館の看板に吸い寄せられるかのように看板上にピッタリとかかります・・!それを見て思わず愕然とし「アアッ!?」と怯む柳三郎!このシーンは本作『精武門續集』屈指の名場面であると同時に、私、龍熱が本作で一番のお気に入りシーンでもあります。
ただソックリさん武打星の中で最も知名度が高く、また最も成功したと言える何宗道ですが、そのクンフー・アクションにおいて殆ど致命的な点が何宗道自身のアクションのスピードの無さです。それは本作『精武門續集』でも同じで、クライマックスの精武館における陳善vs宮本の一騎討ちでも、折角武術指導を担当するトミー・リーこと金銘が渾身のクンフー・ファイトを構築しながらも、やはり何宗道の今一つシャキッとしない動きが随所に目に付いてしまったのでした。
そうは言いながらも、この『精武門續集』は同時期に製作された羅維導演、成龍主演『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』(76)の余りにも陰惨な結末とは異なり、激闘の末に宮本を破り切腹へと追い込んだ陳善がその胸中に中国人の誇りと名誉を秘めながらも、毅然と警察に自首するというある意味清々しいエンディングが観る側の心を強く打ちます。
また本作における無念にも命を落とした兄の陳眞(李小龍)の遺志を弟の陳善(何宗道)が引き継ぎ物語が進行するという所謂“龍兄虎弟系列”とも称される斬新な設定を、後年の『ブルース・リー死亡の塔』(81)における兄に李振強(李小龍)&弟に李振國(唐龍)との同様のキャラ設定に先駆ける形で打ち出して見せた点も改めて評価したいですね。
と言うわけで、精は“魂の団結”、武は“支配への抵抗”、精武と書いて“不屈の闘志”と読む!次回の「正宗精武門電影大全」第5弾をどうぞお楽しみに!
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4 コメント

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ヌンチャクのシーンが… (呉二)
2011-01-04 14:12:05
…無いんですよ!
私のは英語吹替版なんですけど、カットされているんでしょうか?
南さんは和装が似合うわね~などと、ミーハー的にザッと観ただけでしたので、改めて。
…新年早々に観る作品か?という気もしましたが…(汗)
何宗道、まだこの作品しか観ていませんし、初めてだったのですが、ステキですね!
でも、これで良いなあと思ったのは鹿村さん。
敵ながら、ちゃんと見せ場をもらっていますよね。
リエさんは…眉間にシワをよせているばかりで…また鉄掌ですか…やっぱり日本人だと雅楽なんだ(涙)の切腹シーンに脱力しました。
ウチの母からは、「なんで紋付なの?」とツッコミが入りました。
羅・南・鹿村クラスの人が着ているのはわかるけれど、下っ端連中まで紋付って確かに変。日本人だよ、ってことでしょうけど。

…スミマセン、ダラダラ長くなりまして。
遅くなりましたが、あけましてオメデトウございます。
昨年はリンクいただきまして、感激でした。
今年もよろしくお願い致します!
返信する
こちらこそ! (龍熱)
2011-01-04 17:16:56
呉二さん、

こんにちわ!
ヌンチャクのシーンがカットされているのは、
もしかしたら呉二さんの購入された『精武門續集』がイギリスなどでリリースされたソフト
なのかも知れません。イギリスなどの数カ国
ではヌンチャクのシーンをカットしたりする
ケースが以前にも多々あったので。
この映画の鹿村さんや南宮勲は凄みがあって
迫力満点ですよね。
もし他の何宗道作品にご興味がありましたら
国内でもDVD化しているブルース・リィの『大金塊』がお薦めです。
恐らくはソックリさん映画以外では、何宗道
のベストと言えるモダン・サスペンスの傑作
です。こちらこそ相互リンクありがとうござ
います。今年もよろしくお願いします!
返信する
やはりカットですか! (呉二)
2011-01-04 21:57:04
もう、カットとか勝手な編集はやめていただきたいですよね!

『大金塊』、実は気になっていた作品です。
(…なんでだっけ、と今調べてみたら、桂治洪が監督ですね。)
是非、観たいと思います。
ご教示ありがとうございました(礼)
返信する
『大金塊』 (龍熱)
2011-01-05 00:26:30
呉二さん、

こんばんわ!
『大金塊』は後半の何宗道vs高飛
の室内の一騎討ちが素晴らしいです
し、何気に鹿村さんも出ています♪
是非ご覧になってみて下さいね。
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