超級龍熱

香港功夫映画と共に

黄金の70年代香港クンフー映画 ⑩ BRUCE IS BACK!「ブルース・リー死亡遊戯」

2018-11-27 14:14:32 | 作品レビュー

さて、“世紀の闘神”ブルース・リーこと李小龍の生誕日の今日を祝うべく、当ブログ「超級龍熱」では“猛龍生誕祭”として全10回に渡ってスペシャルコラム「黄金の70年代香港クンフー映画」を連載して来ましたが、大結局の今回はロバート・クローズ監督、李小龍主演「ブルース・リー死亡遊戯」(78)でフィナーレとしたいと思います。何故なら私こと龍熱にとっても、この「死亡遊戯」こそが1970年代序盤から香港や日本を含めた多くの国々を何年にも渡り大熱狂させた“ドラゴンブーム”の終焉を否応にも感じさせた作品だったからです。

ただ以前にも何回か触れましたが、私は「死亡遊戯」と「死亡の塔」の作品検証に関しては殆どやり切ったと思っていますし、事実「死亡遊戯」と「死亡の塔」をここまで徹底的にとことん探求した日本人は私以外には誰もいないと自負しています。そこで今回は日本での李小龍及び香港クンフー映画の黎明期から本作78版「死亡遊戯」日本公開に至るまで、文字通り多大な功績を残された1人の映画評論家の思い出に触れたいと思います。その方こそが故日野康一さんです。

恐らく私と同年代、つまり李小龍直撃第一世代のリーさん信者にとって日野さんこそが私たちドラゴン少年に李小龍のABCを教えてくれた“伝道師”と言えるでしょう。実際、74年前後に山のように発売された李小龍の出版物の中で、私は「日野康一」の名前がある本は必ず購入していました。それほど私の中で日野さんの存在と信用は絶対的なものがありました。また日野さんの功績は李小龍だけではなく、今回のスペシャルコラム「黄金の70年代〜」にも登場した王羽や倉田保昭さん、嘉凌や茅瑛などの女ドラゴンたち、さらには劉氏兄弟などの邵氏公司作品まで実に幅広く、かつバランス良く紹介されていた事は改めて感嘆の一言です。そしてその日野さんの数々のベストワークの中でも一際光輝くのが74年から78年に至るまで日野さんが「ロードショー」や「スクリーン」などの映画専門誌に寄稿された「死亡遊戯」の最新情報でした。あの日野さんの「死亡遊戯」最新情報ほど私たちリーさん信者を興奮させ、また胸踊らせた記事はありません。

余談ですが、日野さんは当時まだ「死亡遊戯2」と呼ばれていた「死亡の塔」の存在についても、東京の某銀行に来ていた呉思遠を偶然キャッチし、その場で呉思遠から「えっ?「死亡塔」だって?困ったな、それについてはチョウ社長に訊いてくれよ!」とその固い口を開かせる事に成功しています。

さらに余談ですが、遥か以前から長きに渡って噂が1人歩きしていた「ジョン・ラダルスキーが解元が丸太でダン・イノサントと闘うシーンが収録された「ブルース・リーの生と死」(73)の広東語版だかを持っていて、それをファンがラダルスキーに見せて貰った」等々といった一連の未確認情報ですが、最近その噂の真実を遂に解明しました。結果から言いますと、今は亡きラダルスキーは「死亡遊戯」の丸太戦映像は持っていませんでした。これは私が共通の友人を通じて生前のラダルスキー本人に確認しています。そして丸太戦の映像が収録された作品は「〜生と死」ではなく別の「死亡遊戯」の関連映像で、その映像を所有している人間もラダルスキーではなく別の人間です。私は現在もその映像を所有している人間の実名と共に、その人間が何処で、どうやってその映像を手に入れたかも把握する事が出来ました。

さて、1995年「ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進!」でデビューした私こと龍熱は同書の中の「闇の中に誰も知らない「死亡遊戯」を見た!」で、それこそそれまで誰も踏み込んだ事がない「死亡遊戯」の未公開映像の世界を明らかにしました。その時から「死亡遊戯」は「死亡の塔」と共に私のライフワークとなっていったのですが、それから数年後、遂に私と日野康一さんの対面が実現します。

あれは某映画雑誌の取材で「死亡遊戯」をテーマに私が日野さんにインタビューする企画でした。ここで敢えて正直に言います。この時の私は心の中で「日野康一、果たしてどんなものかいな?」との思いがありました。それほど当時の私は「死亡遊戯」の検証&探求には絶対の自信を持っていました。

さて、インタビュー取材当日。私と編集者の前に現れた日野さんは喉の手術をされたばかりで、その声は辛うじて聞き取れるぐらい小さく、私はちょっと拍子抜けした記憶があります。それもあってか、私は余裕の表情で当時上梓したばかりの拙著「香港功夫映画激闘史」を日野さんに献本したのを覚えています。しかし、いざインタビューが始まると日野さんは饒舌でした。それはまるで昨日香港や台湾で取材して来たばかりのように「死亡遊戯」について熱く熱く語る日野さんに私はタジタジとなっていきました。

そんな日野さんの口から「僕は「ブルース・リーの生と死」(73)は台湾で試写室が一杯で使えないんで、無人の台湾の映画館でフィルムを回して貰ってたった1人で観たんですよ。あとね「死亡遊戯」が公開されてから香港で西本正さんが自分で編集(!)した7分ぐらいのラッシュフィルムも観ました。その7分間の映像にはクローズ版に出て来ない池漢載のアクションがありましたよ!」

まさに驚きの新事実です。このような衝撃的かつ、またそれまでどの媒体にも1度も書いていない情報をアッサリと私に対して語る目の前の日野さんに、私は最初の余裕などはフッ飛んでしまい、改めて心の中で「嗚呼、間違いない。この人は“本物”だ。この日野康一さんこそ日本のブルース・リー紹介と研究のパイオニアなんだ。日野さん、よくぞ自分たち日本のリーさん信者を今日までミスリードすることなく正しく導いてくれました!」と深く頭を垂れたのでした。

私は日野さんとのインタビューを無事に終えると、本当に心からの敬意と感謝を込めてその日持参した日野さんの著作「ブルース・リーのすべて」と「ブルース・リー大全科」に日野さんの直筆サインを入れて頂きました。日野さんはインタビュー開始時とは違って穏やかな表情で本にサインを入れながら「この大全科は読んでると真ん中でバリッと割れちゃうでしょ?」と私に微笑みかけて下さいました。私がデビューしてから20数年、今日この日まで、私が映画評論家の方にサインを頂いたのは日野康一さん、ただ1人です。

以前から私の周囲の方々から「日野康一さんの後を継いで今日まで日本の香港クンフー映画を支えて来たのは龍熱さんですよ!」とのお言葉を頂く事があります。その言葉には本当に嬉しい気持ちで一杯です。ただまだインターネットもない時代に、中国語も殆ど読めない状態で、あれだけの膨大かつ詳細なブルース・リーと香港クンフー映画の情報を私たちに提供してくれた日野さんの功績は計り知れないほど偉大である事は間違いありません。

そして私から見てもう1つ日野さんに敬服すべき点があります。78年に「死亡遊戯」が公開され、ある意味“ドラゴンブーム”が終焉を迎えた翌年、まるで「死亡遊戯」公開と入れ替わるかのように1本の新感覚溢れる香港クンフー映画が日本で公開されます。そうです、成龍主演「ドランクモンキー酔拳」(78)です。この香港クンフー映画の新たな波と言える成龍&コミカルクンフー映画ブームにも日野さんはシッカリと対応し、数々の媒体に成龍紹介の記事を書かれていました。これはファン時代は勿論、映画評論家となってからもガチガチのリーさん信者である私には中々出来なかった事で、その日野さんの映画評論家としての柔軟性には敬服するのみです。

日野さんが亡くなられてから今年で8年になります。そんないま私は思うのです。あれだけの情熱と熱意で私たち日本のドラゴン少年たちにリーさんの激動の人生を、その輝くばかりの武打星としての魅力を何年にも渡って伝えて下さった日野さんには、もし可能だったら一目だけでもリーさん本人に会わせてあげたかった。でもきっと今頃は天国でリーさんと日野さんは感激の対面を果たしている事でしょう。そしてリーさんはちょっと緊張気味の日野さんとガッチリと握手を交わしながら、満面の笑みと共に日野さんにこう語りかけている事でしょう(^_^)。

リーさん「やあ貴方が日野先生ですか?ミーは貴方には昔から感謝していました。さあ、いま貴方の目の前に世界のスーパースターが立っているんですよ!」

日本における李小龍研究のパイオニアにして最大の功労者である日野康一さん。龍熱はいま改めて最大限の敬意と感謝を込めて、この言葉を追悼の言葉として贈ります。

そう、日野康一の前に日野康一なく、日野康一の後に日野康一なし!!

誠意献給一代电影评论家日野康一先生!誠意献給一代巨星、李小龍!!

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3 コメント

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Unknown (名無し)
2018-11-29 13:51:54
一昨年位にドニー兄貴の作品に触れて感銘を受け、子供の頃からテレビ等で親しんで来たクンフー映画を改めて真面目に観賞し始めた自分には大変興味深い企画でした。勉強になりました。自分もブルース・リーの作品は死亡遊戯が一番好きです。終盤に感じるカタルシスが好きなんですよね。
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ありがとうございます! (龍熱)
2018-12-01 23:07:26
Unknownさん、

こんばんわ!こちらこそコラム読んで頂きありがとうございました(^_^)。
ドニー兄貴が登場する以前にもこんな素晴らしいドラゴンやタイガーたちがいた事を知って頂けたら嬉しいです。
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Re:ありがとうございます! (名無し)
2018-12-05 16:26:55
龍熱さんのコラムを拝見していくつかDVDを注文しました。発売していた時期を自分が逃していたのもありますが再発してもらいたいクンフー映画がたくさんありますね。
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