師走の喧騒の中を…人々が足早に通り過ぎていく…。
ゆっくり歩いているのは…僕ぐらいなもの…。
町のあちらこちらに飾られたイルミネーションの蔓…。
夜になれば美しく輝くのだろうが…今は間抜けな電球の集まり…。
明日はクリスマス・イブ…。
さっき…通りすがりにぶつけられたあの袋の中には…きっと…いろんな想いが詰まっているのだろう…。
僕はただ…歩くだけ…。
通りの中央辺りの…よく磨かれたショー・ウィンドウの前で…ちょっと立ち止まる…。
そこに見えるのはふたつの顔…。
豪華にディスプレイされたウィンドウの向こう側から見つめている貴女の顔と…ウィンドウに映る僕の顔…。
貴女の顔には温かな実体があり…僕の顔には…ない…。
貴女が気付いて…優しく微笑む…。
僕は慌てて…ぶざまに会釈する…。
ただ…それだけ…それだけのこと…。
何事もなかったかのように…その場を通り過ぎる…。
胸が熱い…けれど…寒い…。
あの時…貴女の視線は…何処に向けられていたのだろう…。
僕ではない…分かっている…。
聖夜を共に過ごす誰かに…だろうか…。
それとも…愛する家族へ…だろうか…。
日常的に訓練された営業用の微笑でさえ…今の僕には温かい…。
視線の向けられるその先に…一瞬だけ僕が居た…。
それだけ…ただ…それだけのこと…。
多分…言葉を交わす前に…僕の恋は終わる…。