徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

二番目の夢(第二話 鬼の呼ぶ声)

2005-07-08 11:58:30 | 夢の中のお話 『鬼の村』
 『鬼の一族』についての記録を紫峰家の古文書で調べてみたがそれらしいものはなかった。
紫峰家には口伝もあるので、一左にも確認したがその言葉には覚えがないという。
ただ笙子の親たちの反応から藤宮には何らかの記録が残っているのだろうと一左は言っていた。

 あれから史朗のところにも玲子の彼氏のところにもそういう手紙は来ないというし、年寄りが懐かしがって書いた、ただの近況報告だったのかもしれないと修は思い始めていた。



 居間のテレビがヒステリックな声を上げ叫んでいた。透も雅人も夢中になって画面を見つめている。何とか言う超能力者が遺体を見つけたの、事件を解決したの、そんな番組をやっていた。

 「こんなの紫峰の力を使えば一発だぜ。」

 「だめだめ。紫峰一族は外部には絶対裏の顔を見せられないんだ。」

番組が終わってテレビが切られると急に辺りが静かになった。

 「ねえ…修さん。僕ら人助けをしてはいけないの?」

雅人が訊いた。

 「人助けという言葉は耳障りがいいけれど、そう簡単なもんじゃないよ。」

修は二人に語って聞かせた。

 「人というのは身勝手な生き物だからね。
 例えばおまえが力を使って大事な落し物を探してあげたとしよう。偶然見つけたことにすれば親切な人…で済む。

 おまえが力の持ち主だということが分かってしまうと、そんな力があるならあれもして欲しい、これもして欲しい。できなければ…なぜできないんだ、うそつきだ、詐欺師だってことになる。

 それだけならまだいいが、この力を他人に悪用されたり、逆に怖れられて迫害されることもある。争いの種は極力避けるべきなんだよ。」

 その時、修の脳裏に何か引っかかるものが浮かんだ。『悪用…迫害?』すぐそこまで思い出しかかっているが、なかなか解答に結びつかない。

 そうしているうちにまた頭痛が襲ってきた。頭の中で鐘が鳴っているようだ。透も急に調子が悪くなったのかこめかみを押さえている。

 「なんか頭痛いんだけど。」

 「マジ…ちょっと待って。」

雅人は透の額に触れた。何かに気付いたように修の顔を見た。

 「え…? …鬼…? 修さん。その頭痛、誰かのでかい声が共鳴してるんだよ。でか過ぎて巧く伝えられないんだ。」

 雅人が頭痛の正体を読み解いた。修が感じていたようにやはり誰かが信号を送っている。
聴覚の優れた雅人は共鳴する音の中から言葉らしきものを捉え始めた。

 「…鬼…結界…村。樹…樹の名があるよ…。」

 修は愕然とした。樹の名を知るのは一族の者だけだ。だが今現在一族の中には樹に助けを求めるような危機的状況にある人はいない。外部の者がまさかとも思うが…。

 共通する『鬼』の文字。
 
 史朗の話とこの頭痛の間にはなんらかの関連があるように思えて、修は史朗の手紙について本腰を入れて調べてみる気になった。



 笙子の実家を訪れるのは久しぶりである。笙子の両親は笙子がいまだにとんでもない生活をやめないので修に対しては大いに引け目を感じている。そんな両親に気を使われるのが嫌で自然足が遠のいていた。

修が到着したとき、ちょうど玲子とその恋人が屋敷に入ろうとしていた。
ちょうど恋人が門を潜り抜けた時、玲子は修に気付いて立ち止まった。

 「修さん。おひとり…?どうなさったの?」

玲子は心配そうに訊ねた。彼女も笙子のことを気にしている。

 「少しご両親に伺いたいことがあってね。とくに玲ちゃんのいい人のことで…。」

玲子は頬を赤らめた。

 「あら…姉さんね? そんなことをお願いしたのは。 お忙しいのにごめんなさい。
彼は木田彰久さんというの。父の研究室で助手をしています。彰久さん…。こちら義理の兄…紫峰修さんよ。」

 気付かないまま先を歩いていた彰久は振り返って修の方を見た。修も彰久を見た。

 「紫峰…樹…。」

 「鬼将…。」

二人の口から思っても見ない名前が飛び出した。お互いに顔さえ知らぬはずの相手に思わず口走った名前。言った本人たちが驚いた。

 「あ…失礼しました。修さんでしたよね。」

 「こちらこそ…でもなぜその名をご存知で?」

修は彰久に訊ねた。

 「いや…知っているというほどではないのです。なぜか記憶にあるというだけで…。
あなたこそなぜ鬼将のことを?」

 「樹の知人の綽名です。本名は将平というのですが…。樹というのは先祖の名前です。」

 「奇遇です。鬼将は僕の先祖なんです。」

二人はまじまじとお互いを見た。

 「修さん。彰久さん。中へお入りになって。立ち話は落ち着きませんわ。」

玲子は二人を促して応接間へと案内した。




 玲子がお茶の用意をするためにに奥へ行っている間に、修は史朗から見せてもらった手紙のことなどを掻い摘んで彰久に話した。

 「史朗くんと僕は実際には従兄弟にあたります。あまり行き来がなかったので史朗くんは気付いてないかもしれませんが…。

そうですか。史朗くんの所にも…。

 実は僕自身もよくは知りませんが、なんでも僕の祖父という人が鬼将の血を引く一族の長だったそうです。
 早くに亡くなったためにすぐ下の弟が後を継いだらしいのですが、この人が最近亡くなった族長ではないかと思います。手紙をくれたのはもうひとりの弟のようで…。
 
 幼かった息子二人を連れて祖母が他家へ嫁いだので、村を出て以来ずっと音信不通というわけでして…。」

 彰久の許に届いた手紙もやはり彰久の父親に宛てたもので、史朗同様、最初は何のことだかさっぱり分からずに困惑したという。
 ただ、幼い頃に祖母がいつも断片的にしていた昔話を思い出してみるとなんとなく思い当たるものがあって、ただの御伽噺だと考えていたものが俄かに現実味を帯びてきた。
 
 玲子と一緒に両親が奥から姿を現した。二人とも修の急な来訪に驚きはしたものの、心から歓待してくれた。同席している彰久のことも嫌っているというわけではないようだ。むしろ、好意を持っていると見ていい。

 「笙子から皆さんに…タイの土産だそうです。」

 「タイの…あれはまたひとりで勝手に飛び歩いているのかね?」

笙子の父陽郷が渋い顔をした。

 「ひとりじゃありませんわ…。」

玲子が腹立たしそうに言った。母親の聡江がおよしなさいというように玲子の方をにらんだ。
陽郷がさらに渋い表情を見せた。

 「宗主…。」

 「仕事ですよ…お義父さん。それに僕のことは修と呼んでください。」

修にそう言われると陽郷は黙るしかなかった。

 「それより伺いたいのは…なぜ彰久さんを鬼の一族と言われるのですか?」

陽郷の顔に動揺の色が浮かんだ。

 「まさか…千年も昔のことを問題にしているわけじゃないでしょうね?」

彰久も玲子も『えっ?』と言わんばかりに陽郷の顔を見た。聡江ががっくりと肩を落とした。
何か言いにくいことがあるようで、陽郷はしばらく黙って考えていたがようよう決心がついたのかポツリポツリと語り始めた。
  

 

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