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多発性嚢胞腎の漢方治療 医案8 腎病漢方治療184報

2013-07-29 00:15:00 | ブログ

文全氏医案 蓄血証

(江蘇中医雑誌 1986年 第8期より)

患者?某 51歳 女性 教師

入院年月日:19841011

病歴と所見

14年前、血尿、高血圧及び腹部の包塊にて、上海某医院で多発性嚢胞腎併発血尿と診断された。19841011日、高血圧、血尿、腹張にて入院。多発性嚢胞腎併発血尿、高血圧と診断。

検査所見:血圧170/90mmHg、尿蛋白(3+)尿中RBC(3+)尿中WBC(+)、尿培養(-)、大便潜血(+):末梢血液:ヘモグロビン9.1g/dl、RBC300万、WBC4050(好中球70)、超音波検査:右腎176mmX104mm、左腎199mmX91mm、両腎ともに大小不同の低回声暗区あり。診断、双腎多発性嚢胞腎。西洋医学治療で血圧安定し140/75mmHg

1984115日、診察時に患者は煩躁、入睡困難、発狂しそうで、腹全体が張り、拒按、小便通暢、軽い排尿痛がある時もあり、大便4日間不通(嘗て黒色便のことあり)。

脈弱偏滑、苔淡黄にして干。

弁証:蓄血証。治用:桃核承気湯加減:

桃仁6g 生大黄(後下)5g 芒硝(後下)10g炙甘草3g 桂枝5g 炒蒲黄(包煎)10g?菜花30g 茶葉10g 3剤。服薬後大便に多量の黒色軟便と楝?大の小血塊が2個出たが、臍両側の腫大した腎臓はまだ触れ拒按であった。原方を加減継続治療した。桃仁6g 当帰10g 赤芍白芍15g 炒蒲黄(包煎)10g ?菜花30g 懐牛膝10g 藿香9g 10g

服用2剤後、また小便中に米粒大の暗黒色の血塊5~6個が排出された;原方再度服用5剤、大小便検査正常、左腎下極は臍まで、右腎下極は臍下2cmまで触れる。腫大した腎臓の臍の両側は肝脾分野に属する。故に疏肝理気和絡の法に改め、健脾を補助とした。柴胡5g 桃仁6g 赤芍白芍12g 失笑散(包煎)、当帰懐牛膝10g 厚朴5g 藿香9g 党参15g。同時に帰脾丸六味地黄丸を持って健脾腎とした。

128日再検査:二便正常、RBC360万、WBC5800、ヘモグロビン9.4/dl、超音波検査:左腎153mmX94mm、右腎172mmX105mm、腫大した腎臓は柔らかくなって、触診で微痛があり、明らかな結節形成に到っていない。左腎下極臍上2cm、右腎下極臍の位置、血圧140/70mmHg19851125日退院、原方を常服し、病状は安定している。

評析

多発性嚢胞腎が慢性化すると、瘀血が下焦に着して、下焦蓄血証にしたがって治療すると、黒色の糞便および黒色の血塊が尿から出て、腎臓は軟となり小さくなった。邵氏は部位弁証を基礎に、疏肝理気和絡法で治療し効果を収めた。このことから、多発性嚢胞腎の病機は亦、気滞血瘀、肝脾失調に属すると言える。このように弁証すれば中薬治療で効果が得られるだろう。

ドクター康仁の印象

蓄血証は懐かしいです。中医学を勉強し始めたころの「傷寒論」の「蓄血証」を思い出します。太陽蓄血証と陽明蓄血証が有りますが、非常に概念的なもので、西洋医学の病名や病態に対応させることが困難です。

本案での桃核承気湯の太陽(膀胱)蓄血証は、兼表症あるいは無表症、発狂あるいは如狂、小便自利、少腹急結あるいは鞕便で、表邪が化熱し下焦に内陥し、瘀血と熱が互結することが病機とされますが、覚えきれないという印象を持ったものです。桃仁 桂枝 大黄 芒硝 炙甘草が組成です。もっと重症化すれば抵当湯(丸)「ヒル(水蛭)アブ(虻虫)桃仁大黄」で破血逐瘀します。表症が残存いていても破血を先に行うので先裏後表と言います。そもそも、表症が残っている場合に桂枝を配伍するのだろうと当時も今も、その程度の認識です。なにしろ日本では卑弥呼の時代の方剤ですから。

さて、炒蒲黄(包煎)10g?菜花30g 茶葉10gのうち茶葉は無視していいでしょう。始めの3剤のみの配伍ですから。蒲黄は活血化瘀止血利尿に働きますので、桃仁 大黄 蒲黄で活血の組み合わせと考えていいでしょう。?花は上海周辺でしか使用されない生薬で、甘涼の性味を持ち清熱解毒剤に属し、凉血止血、清利湿に作用します。日本では流通していません。上海学派はよく使用する生薬です。

失笑散は日本人には向きません、蒲黄と五霊脂(ごれいし:ムササビの糞)が組成で生臭いのが欠点です。活血祛瘀剤として有名ですが、私自身も処方する気も、飲む気にもなれません。クサヤの匂いも個人の好みでしょうが、ともかく、臭いのは苦手です。

藿香9gの配合理由が思いつきません。湿阻中焦に用いられる薬剤です。その意味では厚朴の配合理由も思いつきません。荷葉は?これには止血の意味がありますね。患者の脈弱偏滑、苔淡黄にして干(乾燥)ですから湿は無さそうです。であるなら何故、藿香とか厚朴の配伍になるのか?我には解らないのです。処方した当の本人も何故自分がこの処方をしたのか思い出せないかも知れません。

小便に血塊が出たのは血腫の一部が出てきたのだろうと納得しますが、大便に血塊が出るとは多発性嚢胞腎は解剖学的には消化管とは繋がりがありませんので、私の通常感覚(常識)を超えています。しかし腎臓以外の嚢胞が報告されていることも事実ですから、消化管の嚢胞から出血を起こすほどの活血をすると治療効果が良くなるということでしょうか?それは無いと思うのですが。私の常識もあてにならないかもしれません。脳動脈瘤の併発も問題の一つですから、降圧と活血のバランスが必要になってくることは確かでしょう。

Polycystickidneys

写真 多発性嚢胞腎

Physiopedia UK)より引用

http://www.physio-pedia.com/Polycystic_Kidney_Disease

2013729日(月) 記


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