蘇安氏医案 肝腎陰虚 瘀濁内滞案
(実用中医内科雑誌 2002年 第6期より)
患者:張某 49歳 男性 教師
初診年月日:1995年3月5日
病歴:
患者の話によれば、1年前から眩暈耳鳴り、両脇腰部の不快感、尿血諸症が出現し、某省病院で“多発性嚢胞腎”、“多嚢胞性肝臓”と診断を受け、中西薬物治療を受けたが、血尿だけが好転し、余症は変わらなかった;近月来、疲労が重なると、情志が鬱悶し症状が加重し、眩暈耳鳴り、両脇腰部隠痛、咽干口苦、心煩、納少、便乾燥、家族歴では兄が“多発性嚢胞腎、腎不全”で2ヶ月前に死亡している。
初診時所見:
血圧22/14kPa(165/105mmHg)、形痩面萎(痩せていて顔色がくすんだ黄色)、神清不爽、両脇下蝕痛(+)、但し腫塊無し、双腎区殴打痛(++)。舌質黒ずんだ紅、苔薄黄、脈細弦。尿検査:蛋白(2+)、RBC(4+)、WBC(±);腎機能:Cre 485μmol/L(5.48mg/dL)、二酸化炭素結合力15.01mmol/L;超音波検査:双腎多数の大小不同の液性暗区、肝内には瀰漫性の大小不同の無回声区。
診断:
多発性嚢胞腎 多嚢胞性肝臓
弁証:
肝腎陰虚、瘀濁内滞
治法:
滋補肝腎、行瘀泄濁化滞
処方:枸杞子20g 菊花20g 茯苓10g 澤瀉10g 牡丹皮10g 麦門冬12g 沙参12g 白芍15g 旱蓮草20g 莪朮10g 土元(庶虫)6g 夏枯草12g 瞿麦30g 白茅根30g、同時にnifedipine10mg毎日3回、桂枝茯苓カプセル3粒、毎日3回服用。
経過:
上方連続6剤服用後、眩暈耳鳴りは顕著に減軽した。咽干、口苦、心煩は酷くなく、大便は不調であった。BP19/13kPa(143/98mmHg)。患者はやや腰膝の乏力を感じ、小便が不爽であったがその他の不快な症状は無かった。舌淡暗、苔薄白、脈沈細。陰虚は漸復、腎陰陽は尚欠乏、湿濁瘀が交阻、治療は腎陰陽双補を主として、行瘀泄濁化滞を補佐とした。
処方:生地熟地各12g 山薬12g 山茱萸12g 茯苓10g 澤瀉10g 牡丹皮10g 桂枝6g 制附子3g 夏枯草12g 瞿麦30g 浙貝母6g 三棱10g 莪朮10g 庶虫6g 沢蘭12g 懐牛膝15g。
この方剤以後、随症やや加減し、連用60余剤後、血圧が安定し、尿検査正常、BUN 7.5mmol/L(45mg/dL)、Cre 158μmol/L(1.78mg/dL)、二酸化炭素結合力29mmol/L。
超音波検査:双腎著明に縮小、nifedipine、桂枝茯苓丸を停止し、上方を蜜丸にして、1丸9gを毎日3回(計27g)を服用。1年後、随訪、正常に仕事をしており、明らかな自覚症状無し。
評析:
本案は先天稟賦不足、腎元欠損、肝鬱気滞、水液代謝失暢、瘀濁が腎、肝に互結して発症した。肝腎陰虚は滋陰が宜しく、腎陰陽双欠には補う。その治療は、益腎培元扶生を基礎として、同時に始終、行瘀泄濁化滞の祛邪諸法を補助とする。補中有瀉、補瀉併用、病は難病であるが、効果のある処方の一つであろう。
ドクター康仁の印象
医案中の、両脇下蝕痛(+)、但し腫塊無し、双腎区殴打痛(++)については失笑してしまいます。痛みの程度を定量化する試みなのでしょうか?素人じゃあるまいし。痛み有り→+、意味不明な2+です。3+となると?
どうでもいいことですか。
最初の方剤は杞菊地黄丸加減で、麦門冬12g 沙参12g 白芍15g 旱蓮草20gなど養陰斂陰が目立ちます。後の方剤は八味地黄丸加味になっていますね。夏枯草12g 浙貝母6gは化痰散結の組み合わせ、三棱10g 莪朮10g 庶虫6g 沢蘭12gは活血祛瘀の組み合わせ、懐牛膝15g補肝腎、瞿麦30gは清利湿熱、利水通淋と考えれば理解しやすいですね。
庶虫(しゃちゅう)はシナゴキブリ、サツマゴキブリの雌の成虫です。
スケッチは以前の記事をご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121014
2013年7月27日(土) 記
こうも暑いと思考減退が避けられませんね。
猛暑が続いています。熱中症にご注意ください。
暑中お見舞い申し上げます。
「冷やし中華」の文化圏で育ったので、いまだに「冷メン」が「冷メシ」に見えちゃうんですよ。
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