?振声氏(1930~1998)医案 肺腎陰虚挟有瘀熱案
(上海中医薬雑誌1996年第9期より)
患者:李某 24歳 男性 未婚
初診年月日:1987年11月10日
主訴と病歴:
1986年11月ごろ、突然に両下肢に斑点状の出血性皮疹が出現、踝の関節の腫痛があり、腹痛はなかった。地元の病院で「紫斑病性腎炎」と診断され、入院治療、皮膚の紫斑は消退、踝関節の腫痛消失、蛋白尿は波動的に(3+~4+)であった。退院後、感冒後の咽痛、尿蛋白が消えず、中西医治療1年で効果は顕著でなく来院した。
初診時所見:
患者の主訴は腰酸、咽喉干痛、喜飲涼水、尿黄、大便干結、舌質暗紅、苔薄黄、肌膚に水腫無く、紫斑も無く、脈象弦細。
診断:肺腎陰虚挟有瘀熱
治則:養肺滋腎 兼 涼血瘀
処方:麦味地黄湯加減
麦冬 生地 茯苓 澤瀉 益母草 桑寄生各15g
五味子 牡丹皮 山薬 沙苑子 枸杞子各10g
白茅根 金桜子各30g
二診(1987年12月4日):
腰酸は減少、ただし倦怠無力感、食欲減退を感じ、咽喉干痛、口干喜涼飲、尿黄、大便はまだ干、舌質は暗紅から浅くなり苔薄白、脈弦細。尿検:蛋白(+)、瘀熱は退きつつあるとはいえ、病は肺腎に入り脾土に及び、主証は脾腎気陰両虚である。故に
参耆地黄等加減:
党参 生黄耆 生地 茯苓 益母草、澤瀉、桑寄生各15g
山茱萸 牡丹皮各10g 砂仁6g(後下) 白茅根30g 25剤
三診(1987年12月29日):
無力感、食欲減退など脾気虚の症はすでに消失。腰も痛まない。ただ、咽痛、口干、大便干結、舌質紅苔薄は前と変わらず、脈細数。尿蛋白(2+)。肺腎の余熱が未清であることから、清肺滋腎 兼 益気養陰
淡竹葉 女貞子 旱蓮草各10g 生石膏(先煎) 太子参 白茅根各30
麦冬 生地 桑寄生 益母草各15g
半月後、口干咽痛などの症状は著明に減軽、後、石斛(甘、微寒 養胃生津、滋陰除熱石斛と玉竹の共通点は共に補陰剤で、補胃陰)10g天花粉15gを加え、養胃生津した。
治療継続3ヶ月。連続5回の検尿で異常なし。
評析
紫斑病性腎炎は現代医学ではステロイド治療を採用するのが常であり、長引くと耗気傷陰、湿熱内蘊、虚実挟雑となり、しつこく再発し難治である。その本虚は肺腎陰虚、脾肺気虚を主として、標実は湿 熱 瘀を要とする。
本案では
初診に麦味地黄丸加減を滋肺腎に
二診に参耆地黄湯を以って補脾気、滋腎陰に重点を置き
三診では竹葉 石膏の甘寒で肺胃の熱を清し、正気を傷つけず、生脈飲、二至丸他をあわせ、清肺滋腎、益気養陰に全力を尽くした。
「久病入絡」「久病多瘀」の説を遵守し、
三診では益母草 白茅根の活血涼血の品を皆配伍して、紫斑離経の血を消散するに利した。
氏の治療は、弁証が明晰で、施治が的を得て、病機に緊密であり、病の各段階に対して、それぞれに適宜対応し、難治性腎病症への卓越した医術を見せているではないか。
ドクター康仁の印象
沙苑子(しゃえんし)
日本では流通していませんので使用経験がありません。
ただ、中国留学中には肝腎陰虚の高血圧などに枸杞子、菊花、桑寄生などと配伍された処方箋を見ていたので、てっきり補陰の効果があるのかと思っていました。
甘/温の「助陽薬」に分類される生薬です。特徴は補腎固精、養肝明目に働くことです。
性味が温ですので陰虚火旺には慎用です。腎虚の腰酸には効果があります。?氏は初診から4週弱使用して中止しています。「助陽薬」という分類が正しいのかどうか疑問です。
?氏は、本案の患者を診た翌年に逝去されています。
医者の不養生だったのかも知れません。
2013年3月27日 記
そろそろ準備しないと。
http://www.kinwu.ac.jp/topics/index.html?id=23726
火焼眉毛 急中生智
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