前案に引き続き、陳湘君氏医案をご紹介します。
患者:王某 22歳 女性
初診年月日:1985年4月19日
病歴:
3年前に顔面に蝶形紅斑、関節酸痛、血沈促進、抗核因子陽性、尿蛋白(2+)により、他の病院で系統性紅斑性狼瘡(SLE)、狼瘡性腎炎(ループス腎炎)と確定診断された。プレドニゾン40mg/dの投与にて、関節の酸痛はやや好転したが、尿蛋白が始終持続し(2+)、氏を受診した。
初診時所見:
顔面の蝶形紅斑は色が鮮やかで灼熱感がある。眩暈耳鳴り、夜間寝汗、午後微熱、二便正常、苔薄、舌尖に紅刺有り、脈やや細数。
弁証と治法:
証は肝腎陰虚、内生熱毒に属し、肌膚に発して紅斑となる。陰虚内熱で津液が外に押し出され、故に潮熱、寝汗となる。肝腎精血が上に昇らないために眩暈耳鳴りとなる。滋陰清熱を治法とする。
薬用:
生黄耆15g 山茱萸9g 黄芩10g 生地2g 草河車30g 青蒿12g 知母 黄柏各9g 茯苓、淮小麦(安徽省産の浮小麦)各30g 五味子6g 赤芍子12g 柏子仁(打)10g 仙霊脾15g 帯心連翹9g
経過:
上記方剤の随症加減で尿蛋白消失、1年後プレドニゾンは40mg/dから漸減して5mg/dとなった。患者の病状は穏定し、1990年正常分娩で男児を出産した。産後の検査で、免疫学的な指標はすべて正常であった。
評析:
盗汗(寝汗)、午後微熱、顔面蝶形紅斑、眩暈耳鳴り、舌尖の紅刺、脈細数など、皆狼瘡性腎炎肝腎陰虚の象であり、“陰虚になれば内熱を生む”、本案は滋陰清熱治療を採用し、生黄耆 山茱萸 生地 淮小麦 五味子 仙霊脾、柏子仁の諸味は滋陰補腎、固摂精微に働き、黄芩 草河車 青蒿 知母 黄柏 赤芍 帯心連翹は清熱涼血化瘀に働き、陰精を充実させ邪熱を自ら退かせる。陳氏は始終中医の弁証論治を原則として治療を施し、同時に臨床症状の変化に結合させる。但し、凡そ脾腎虚損の者に健脾益腎の法を用いる場合、若し眼瞼に浮腫があり眼裂が閉じんばかりで、腹が張り、四肢に浮腫があり、按じて泥の如きであり、胸悶気喘など脾腎陽虚、水湿停滞者には、常に益気温陽、利水消腫の剤が効果を獲得する。その治療の変化は実に同病異治、異曲同工(異なる方法でも同じ効果が得られるの意)の妙である。
ドクター康仁の印象
草河車(そうかしゃ)(蚤休、七葉一枝花、重楼、草河車)功能:清熱解毒、消腫止痛、熄風定驚)
については、過去の記事を参考にしてください。今回氏の医案では始めて目にします。
http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat7185300/
但し、中国では草河車といえば拳参を指し、紛らわしいのが事実です。白花蛇舌草などと共に漢方抗癌生薬に入ります。中国の草河車は日本の拳参を指し、草河車は陳湘君氏が愛用する清熱解毒活血剤ということでしょう。
以前の「卵巣癌の漢方治療」をご覧下さい。
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061115
上海中医薬科大学の上海龍華病院の医案が遠く離れた東北の遼寧省の中医雑誌に掲載されるのはやや奇妙ですが、日本で言えば、東京、大阪、京都などの一流所の論文を、地方医師会雑誌に投稿するようなものであり、学術的なクオリティの問題があるのでしょうね。一方掲載した雑誌はステイタスを上げるということになります。粗製乱造とまでは言いませんが、論文の数と知名度が昇進の鍵になるのでしょうね。
2013年11月1日(金) 記