管??氏は武漢市第一病院中医科の医師です。武漢市は湖北省の省都であり、湖北省より西北の?西省の省都が唐時代の長安、現在の西安市です。
患者:?某 23歳 女性
病歴:
6ヶ月前、明らかな誘因なく顔面に紅斑、関節酸痛、微熱、下肢の浮腫が出現。某病院で検査の結果、LE細胞陽性、抗核抗体1:640、尿蛋白(2+)尿赤血球(3+)、補体C3が著明に低下、系統性紅斑性狼瘡(SLE)、狼瘡性腎炎(ループス腎炎)と確定診断を受け、ステロイド治療後に微熱は消失、関節痛は寛解、抗核抗体1:320、尿蛋白(2+)、尿赤血球(2+)、顔面の紅斑はまだ残存して観察できる、尿赤、硬便、双下肢軽度浮腫あり、口渇があるが水を飲みたがらない、舌暗紅、苔黄膩、脈細数。
管氏弁証と治則:
証は陰虚湿熱挟瘀、滋陰瀉火、利湿活血を治法とする。
処方:
生地20g 知母 山薬 山茱萸各12g 牡丹皮 女貞子 旱蓮草各15g 茯苓 澤瀉 玄参 黄柏各10g 白茅根 益母草各30g 丹参18g 水煎服用。
食事に新鮮山薬250gを加え、煮て粥にして食べる食療を併用した。
経過:
2週後、顔面紅斑は消退、四肢浮腫は消失、余症も著明に寛解した。上方加減継続服用2ヶ月、食療5剤後、臨床症状は基本的に寛解、ANA全部陰性、補体C3正常、病情は基本的にコントロールされた。平時、朝に香砂六君子丸、夕に六味地黄丸を服用するように言い、治療効果を固めた。現在まで再発を見ない。
評析
ループス腎炎を併発するSLEは、中医はその発病部位と病理特徴から、“鬼瞼瘡”“日晒瘡”“陰陽毒”と称する。古くは金匱要略中の“面赤斑斑点如錦紋、咽喉痛”の描述があり“升麻鼈甲湯”を治方とするとある。
本案は面部紅斑隠現、尿赤便結、下肢浮腫、口渇不欲飲、舌暗紅、苔黄膩、脈細数を主症とするを以って、陰虚湿熱挟瘀と弁証し、知柏地黄湯にて滋陰清熱、二至丸を加え、玄参にて滋陰清熱清毒化斑の力を増強し、益母草 白茅根 丹参を活血祛瘀利水の目的で配伍する。諸薬の配伍は相宜しく“陰虚湿熱”の本質を把握しており、真陰は補を得、湿熱は清を得、濁邪は下泄する。同時に、さらに山薬の食療は、健脾、滋陰補血の効果を併せ持つ。治療2ヶ月、終に病は治まった。管氏の弁病弁証が当を得ていると見るべきである。本病の論治では、急性期は正盛邪実で多くは清熱解毒を主とし、寛解期は正虚邪恋であり、常に滋陰清熱、培補脾腎を主とする。これは常規常法といえども、臨床にあたっては各患者の症状にあわせ臨機応変に対応すべきである。
ドクター康仁の印象
例によってステロイドの投与量と初診年月日、初診時のステロイドの量と寛解後の維持量などは記載が有りません。ステロイドがお嫌いなら、最初から中薬で治療すればいいでしょうにと言いたくなります。
処方内容は「学院派」のそれで、奇をてらった生薬の配合は無く、初学者でも理解しうる配伍になっています。
症例報告(医案)を特定するのに、最低限必要なのは、初診年月日と患者の姓名ですが、前者が記載漏れですと、「一体、いつのどの症例なのか?」とクレームがついて欧米のケースレポートでは掲載許可が下りませんが、2000年度の中医雑誌では「お構いなし」なのですから例によっての驚きでした。
それにしても、張仲景時代(日本では卑弥呼の時代)の金匱要略の記載を引き合いに出してくるとは、また驚きでした。古典にも造詣が深いと強調したかったわけでしょう。
さて、
陰虚湿熱挟瘀の弁証の陰虚の根拠を申せば、主症である面部紅斑隠現、尿赤便結、下肢浮腫、口渇不欲飲、舌暗紅、苔黄膩、脈細数の中の「便結 脈細数」ですが、ステロイド治療の副作用としての陰虚火旺が弁病論として存在します。
口渇不欲飲の口渇の部分は陰虚とも捉えられますが、通常の陰虚であれば口渇欲飲、少苔あるいは無苔となるところが、口渇不欲飲は苔黄膩も合わせて湿熱と中医は捉えるのです。
蛇足ながら。
知柏地黄丸については過去の記事をご参照ください。
六味地黄丸派生学 まとめ
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121018
二至丸(女貞子 旱蓮草)については過去の記事を御一見下さい。
非で似たるもの 似て非なるもの
http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat12287040/
玄参の臨床のURLを付記しておきます。
ドクター康仁「玄参の臨床」
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20080822
2013年11月4日(月) 記