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慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療10

2012-12-30 00:15:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

時振声教授 医案4

29歳男性、下腿浮腫があり、尿蛋白定性は4+、時氏受診時までに慢性腎炎として、ステロイド、免疫抑制剤、中薬で治療を受けていた。時受診時には24時間尿蛋白定量では5gの蛋白尿であり、ステロイドは10mg/日を維持量としていた。入院時所見:腰部酸張(lumbar soreness and distension)、咽干、軽度乏力(slight lassitude)、睡眠差(insomnia)、舌質偏紅、苔薄黄略?thin yellowish and a little greasy coating)、脈弦滑沈取無力(taut-rolling pulse but forceless while deep pulse-taking)。平素易感冒(平素カゼをひきやすい)。

(付記。他のデータも無かったわけではないのでしょうが、中医医案の特色は細かい血液生化学のデータを記載しないところにあるようです。中医学は経験医学であり、教科書で一般化できない師弟間の秘密があります。)

(さて)中医学の弁証では、先ず、consumptive disease(虚損)であり、mainly strengthen Qi and nourish kidney-Yin(益気滋腎陰を主とする)を治療原則と判断しました。その治療(具体的内容は記載がありません)により、腰酸などの腎虚症状は軽減され、ステロイドも漸減し中止できるまでになりました。

(付記。通常は腎内科医の仕事はここで終了しますが、この医案では)しかし、lassitude(けだるさ、疲労倦怠感)が次第に酷くなり、四肢の重い感じが、特に運動時に激しくなり、嘔気を伴い、食欲不振、軟便、口干(dry throat)が出現し、舌尖紅、苔薄白?脈は細弦略滑(thready-taut pulse with a little rolling)であった。脾気虚兼脾陰不足挟有湿邪(deficiency of spleen Qi with deficiency of spleen Yin complicated with damp-pathogen)と弁証し、益気健脾養陰利湿(reinforce Qi to invigorate the spleen and nourish Yin to induce diuresis)を治則と判断し、参苓白朮散(太平恵民和剤局方)加減を用いた。

参苓白朮散(太平恵民和剤局方)の元方は、人参 茯苓 白朮 山薬 蓮子肉 白扁豆 薏苡仁 砂仁 桔梗 甘草です。

時氏は人参を党参25g、茯苓30g薏苡仁30g蒼朮(燥湿健脾)白朮各15g山薬20g蓮子肉 白扁豆各15g砂仁、白蔲仁各6g桔梗10g白芍15g黄蓍20g大棗 甘草各6gにて治療開始しました。氏が加味したのは、蒼朮白蔲仁白芍黄蓍大棗です。

蒼朮 白朮 各15gという記載は健脾利湿の際によく見かける処方です。但し、陰虚、便秘がある場合は用いないと中薬講義では教えています。「脾は燥を好む」という中医表現があります。蒼朮は燥湿健脾作用のうち燥湿作用が強い。白朮は健脾、消腫作用が強いと記憶しています。共に用いることで脾虚による湿を改善します。生蒼朮は化湿作用が強く、長期の使用は津液不足をきたすことがあります。制蒼朮は蒸してから乾燥させたもので、化湿作用はやや低下します。炒蒼朮は炒めたもので生蒼朮と比較すると化湿作用は低下します。現在流通している蒼朮は殆ど制、或いは炒蒼朮です。

白蔲仁は白豆蔲(びゃくずく)です。化湿行気 温中止 化湿開胃に作用します。湿邪が上焦にある場合(胸苦しい)に良いとされています。中国では赤ちゃんの吐乳にミルクに粉末を混ぜて飲ませます。方剤では三仁湯(杏仁、白蔲仁、薏苡仁)中配合されています。中国臨床では砂仁とカップルにして使用することが多いようです。煎じ薬の場合には、処方箋には/寇仁各6~ 後下(こうしゃ)というように記載される場合が多いです。共に芳香化湿薬ですので後から煎じる必要性があります。時氏の処方はpowder(散)ですから、後下の必要性は勿論ありません。

白芍の使用目的は私にはわかりません。このような処方のコツが師弟間の秘密なんでしょうね。養陰、斂陰の意味でしょうか?湿がある場合に、どのような基準で使用を決定するのか?難しいですね。

黄蓍20gは多いですね。黄蓍の使い方を極めると腎病の治療に役に立ちますね。

さて、上記時氏の参苓白朮散加味にて3ヶ月治療したところ、いわゆる倦怠感が軽度残るものの、他の症状は悉く消失し、24時間尿蛋白の定量では1g/日に減少して、患者は退院となりました。尿量の変化や生化学的データなどの記載は一切ありませんでしたが、結果よければ全てよしですね。

ともかく、中医学の診断に診察は欠かせません。四診合参の内容は、望診(神色形態 神は精神状態、態は異常な動作を指す、舌診)、聞診(音声を耳で聞く、体臭を鼻で嗅ぐ)、問診「十問」寒熱、汗、痛み、頭身、便、飲食、胸、難聴、口渇、旧病、病因、婦人科特有、小児科特有、そして切診脈診、按診)です。四診合参が習慣となれば、時間的にも、精神的にも大きな苦痛にはなりません。

30日には上海に飛び、朱老師に会ってきます。今回は贅沢にJALで行ってきます。

ドクター康仁 2012年 最終記

Marilynの版木を彫っている時に私流の楽しみ方があります。近未来は確率論的に予想できますが、予言はできません。過去は記録しておくことで、確定されます。正確には私流の楽しみ方があったと過去形で表現すべきでしょう。

Lying_monroe_with_japanese_mask_5

Marilyn Monroe; similar to a Japanese Noh mask? Original woodcut by Dr. Kojin.

能面にも共通するsomethingを感じて記録しました。