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慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療

2012-12-09 12:30:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療を弁ずるに、 先ず、腎炎に限らず、弁証論治は、他の疾病にも必ずついて回るので、いわゆる、中医学の弁証論治が、慢性腎炎(CKD)の特異的な治療でないことを確認しておかなくてはならないことを申し上げます。異病同治が中医学の原則であるとしたら、腎炎の発生病理、進展阻止、合併症管理、腎不全への回避などを、弁証論治のみでは、決して十分ではないことを中医学者も日本の漢方医も強く認識しなければならないのです。すなわち、弁証不可能な症例が多数存在するからです。

およそ、中医学的弁証に基づけば、CKDは気、血、津液の弁証、八綱弁証、臓腑弁証から逸脱してはいません。疾病特異的な弁病弁証はありません。風熱の侵襲があるとする弁証は、西洋医学では、すでに、急性発症型IgA腎炎あるいは急性増悪型CKDの一部に、抗生物質が有効であることが示されています。過労や飲食の節制は、CKDの治療に限るものではありません。中医学の「久病挟瘀」の概念は、あくまで概念であり、物質として捉えられたものではありません。中医学の得意分野である虚火上炎ともなれば,定量化された概念ではなく、これをもって陰虚とする、あるいは虚火とするという基準がありません。中医学を学ぶと、自然に気虚は湿を生み、陰虚は内熱を生むという思考回路が出来上がります。そして湿熱互結の感覚も自然の思考回路に組み込まれてきます。瘀滞という感覚も、久病挟瘀、久病挟痰という概念も自然に受け止められるようになります。

それでは、「瘀血」の証が果たして、CKDの全例に認められるでしょうか? 答えは否です。脈管から外に出血すれば瘀血の原因になると中医学は説いていますが、顕微鏡学的、あるいは肉眼的血尿のある場合でも、病初期には、古典的な瘀血の証が無い場合もあります。この場合の「瘀血」の概念は、中医学の、「概念」に過ぎません。西洋医学にしても、なぜ血尿が生じるのか、形態学ですら判然とはしていないのです。しかしCKDの名のようにchronicつまり慢性病が進展すると「瘀血の証」が出現してきます。したがって活血化瘀の治療は、腎炎の慢性化を予防するのではないかという考えに至ります。

「熱血」の証が果たして、CKD全例に認められるでしょうか? 答えは否です。

実熱のある症例に出くわしたことは極めてまれでした。急性型のIgA腎炎や、急速進行性IgA腎炎の場合にいわゆる発熱を伴うことはあります。しかし、慢性化した自覚症状の無い症例では、虚熱に関しては、午後の潮熱などは滅多に出くわしません。体温変化を延々と3年ほど大学病院時代に計測したことがありますが、典型的な陰虚火旺に相当する患者はいませんでした。しかし、陰虚の証である、口干 煩躁 舌紅苔黄あるいは少苔の証は少数ですが確実に存在してきます。それで、補陰(清熱)の治療が、腎炎の慢性化を予防できるのではないかという考えが出てきます。また、脾虚不摂血を疑うも、少気懶言や面色萎黄などの典型例にも出くわしておりません。但し腎機能が低下して腎不全になると、確かに顔色は悪くなります。腎性貧血がさほど進んでいなくても顔色に華が無くなります。それで、健脾薬を進展防止に使用するという発想が出てきます。

IgA腎炎は、CKDの中でも、形態学的に特徴がはっきりしているものです。中医学的な弁証で診断できる疾患分野ではありません。腎生検の腎糸球体のメサンギウム基質にIgAを主体とするdepositが電子顕微鏡と蛍光顕微鏡検査によって確認できるもの以外にIgA腎炎はありません。

したがって、病理初期においては、中医学の弁証は不十分極まりないものです。しかし、腎炎が慢性化すると、特異的な中医学的な「証」が出現してきます。前述しましたが、凉飲を好み,手足の中心が熱く感じ,便秘気味で,絳舌少苔,脈が細数などの陰虚火旺などが相当します。知柏地黄丸小薊飲子等の合方を行います。具体的には、知母黄柏生地、(あるいは熟地黄であるが生地黄が滋陰清熱という意味で適当であろう)、山萸肉女貞子旱蓮草牡丹皮側柏葉大薊小薊益母草白茅根石葦などです。女貞子、旱蓮草は養陰剤です。大薊、小薊は涼血止血に働きます。石葦は利水通淋剤に属しますが、蛋白尿の軽減に作用することが経験的に確認できている涼薬です。免疫調整のために白花蛇舌草を使用する場合もあります。ただし、何を治療効果の指標にするかというと明確ではありません。西洋医学的には、進行性のIgA腎炎の場合には、扁桃摘出とステロイドのパルス療法などを行いますが、免疫複合体産生の場の扁桃腺を摘出し、炎症を抑えると同時に免疫抑制目的にステロイドを使用するという発想に基づいています。これはこれで、治療効果の的確な指標がありません。何度も腎生検を繰り返すわけにはいきませんので、形態学的なフォローアップは無理であり、臨床検査所見、特にGFR(糸球体ろ過値)を追いかけることになります。

気陰両虚の証といえば、われわれ中医学を学んだものは「これか」と納得する脈や舌の象があります。シェーグレン症候群などで、しばしば見ますが、補気、補陰ともに行います。具体的には黄耆、生地黄/熟地黄、山薬、杜仲、枸杞、山萸肉、党参、当帰、丹皮、沢瀉、甘草、田七人参、玄参、丹参、益母草、白茅根などです。丹参、益母草、白茅根などは、あくまで、涼血活血という弁病的な論治です。丹参には抗活性酸素作用を期待して使用しています。蛋白尿が強ければ、黄蓍を生黄蓍に変え、升麻、覆盆子、金桜子、枸杞、欠実などを加味します。いよいよ、腎不全ともなれば、補陰助陽、利水祛瘀を治則としますが、すでに手遅れの状態であり、腎機能の改善(人工透析への阻止)を達成することは困難になります。したがって、GFR40ml/分を切らない段階に漢方治療を併用しなければなりません。まだ、発症と進展機序が解明されていませんので、清熱解毒、涼血活血化瘀(散血)、気陰双補を行います。玄参、丹参、益母草、白茅根などは、証の如何を問わず、弁病論治として必要な薬剤です。中国の医案(症例報告)にはやや誇大な報告が多く、尿の潜血は消失するとする報告がありますが、誇大な報告といえるでしょう。

しかし、現実的に初診時、すでにGFR20ml/分を下回っても、1年以上、いまだに高窒素血症の進展を阻止できている私自身の症例もあります。柴胡剤(黄芩を含む)は私に迷いがあり使用していません。尿酸は西洋薬で可及的に下げ、降圧剤はACE阻害剤、ARB剤、Ca拮抗薬に限り、一日2回服用を原則とし、高脂血症にはスタチン系薬剤を併用します。

生薬の基礎医学のさらなる進展を期待して止みません。

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What made Marilyn Monroe smile and cry? Original wood cut by Dr. Kojin

Traditional Chinese medicine says[悲即気消] excessive grief exhausting qi.

ドクター康仁 記