ヤクルトのバレンティンは、今日(9月10日)広島戦に4番で先発した。
初回第1打席、先発の前健が投じた高めのボール球を左中間スタンドに放り込んだ。
これが今季54本目で、日本記録55本にあと1とした。
121試合目での54号到達は、85年のバース(阪神)、01年のローズ(近鉄)の128試合を上回る史上最速ペースだそうだ。
このままのペースで行くと、シーズン本塁打ペースは64本となる。
日本の1シーズン本塁打記録をほぼ半世紀ぶりに破ることができるのか。
この話題、すでにプロ野球ファンの間ではかなり注目を集めている。
「過去の3人と同じく、またもや妨害に遭って、達成できないのではないか?」という意味で。
妨害に遭った一人は85年に54本を打った阪神のバース。
もう一人が01年に王と並ぶ55本を打ちながら、あと1本が出なかった近鉄のローズ。
そしてもう一人が02年に55本を打ちながら、あと1本が出なかった西武のカブレラである。
バースは王監督時代の巨人に、ローズとカブレラは王監督時代のダイエーに、すべての打席で敬遠され、打たせてもらえなかった。
日本のプロ野球界には、「日本の国民的英雄である王の記録を外国人に塗り替えさせてはならない」という暗黙のルールが存在するらしい。
85年のバースは、10月20日の中日戦で小松から54号を放ち、この時点で残り2試合。その2試合の相手は王監督の巨人だった。
54号を放った翌日の新聞には、「オレはオーの記録を破れない。それはオレがガイジンだからだ」というバースのコメントが載った。
1試合目に当番した江川卓は真っ向勝負だったが、バースは本塁打を打てなかった。
10月24日のシーズン最終戦では斎藤が先発、宮本、橋本という継投だったが、5打席中4打席がフォアボール。
バースは55本目を打てなかった。
01年のローズは9月29日までに55号を打った。
残るは30日のダイエー戦と10月2日、5日のオリックス戦。
9月30日のダイエー戦では、敬遠を警戒した近鉄が、本来3番のローズを1番で起用したが、初回の第一打席から先発田之上・城島のバッテリーは露骨な敬遠。
途中ローズはボール球を振るといった抗議もしたが、結局4打席全てがフォアボールだった。
ダイエーの若菜バッテリーコーチが、試合後、「王・長嶋(茂雄)は野球の象徴。
いずれ彼(=ローズ)はアメリカに帰るのだから、オレたちが配慮して監督の記録を守らなければいけない」と発言。
投手陣全員にもローズへの敬遠を指示していたことが判明して大騒ぎになった。
残るオリックスとの2試合では、オリックスの投手は真っ向勝負をしてくれたが、結局新記録達成はならなかった。
02年は西武のカブレラ。ダイエーの水田から54号を打ったのは9月27日。
この時点で残り9試合。28日、29日と続いたダイエーとの3連戦では敬遠攻勢は受けていない。
近鉄の岡本から55号を放ったのは10月2日。残りは5試合。
5日のダイエー戦の先発は若田部。5打席中四死球は3打席だったが、残る2打席のうち1打席はボール球をカブレラが強引に振って当てたものだ。
結局カブレラはこの日は打たせてもらえず、その後の4試合ではすべて真っ向勝負してもらえたのに、力みゆえか、あと1本を打つことができなかった。
さらに、手が届いていた三冠王もダイエー戦以降の4試合で打率を下げ、首位打者は日本ハムの小笠原にさらわれ、打点でも近鉄ローズに抜かれ、まさかの一冠に終わった。
批判の対象になっているのは、3度の記録妨害にすべて関与したと見られている王である。
自分の記録を破られたくなかった汚ない男・・・という評価が確立した。
王は敬遠などさせず、めでたく56号が飛び出し、王自身が花束を持って外国人選手をねぎらう・・・
こんなことが実現していたら、人格者としての評価はますます上がり、その映像は繰り返し放映され、語り継がれる美談となったはずだ。
ファンは今年また同じことが繰り返されないか、固唾をのんで見守っている。
しかし今度ばかりは別のところへの影響も考えざるを得ない。
一昨日、東京開催が決まった2020年の五輪である。
56号を打たせたくないためにまた「ガイジン」を敬遠するのか、今度ばかりは世界が見ている。
4たびの妨害行為があれば、日本は外国人を差別する国、「お・も・て・な・し」は嘘だったのかと言われよう。
(そもそも王だって国民栄誉賞をもらいながら、未だに台湾から帰化していない。まさに害、もといガイジンなんだけどね。)
イチローがシーズン安打記録を達成した時、MLBの投手が正々堂々と勝負していたことを我々は思い出さなければならない。