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日本の秘密「造り変える力」(2)

2013年09月23日 | いいとこ取り日本
◆『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力

引き続きこの本に触れながら日本文化の「造り変える力」の秘密を追ってみたい。著者は、日本が太古の昔から積み重ねてきた文明は、伝統的価値観である「和」の原理と「共生」の思想を核とするといい、そこに「造り変える力」の源泉を見る。この二つの価値観が外国の文物を取り入れる取捨選択の規準となるというのだ。これらの価値観に合わないものは、たとえ日本に導入されたとしても根づくことはない。または日本の実情に合ったものへと造り変えられてしまうのだ。とすれば「造り変える力」とは正確に言えば、海外から取り入れたものを自分たちの社会や文化に合うように変形する力だといえるだろう。

著者は、日本人は古来、国外から移入したものが日本の社会に合うかどうかを判断する「本能的感覚」をもっているという。日本の根本原理に合わないものは、不自然なものとして排除や造り変えが行なわれる。日本という社会の根底を揺るがす事態に直面したとき、この「皮膚感覚」が働いて、日本という国を守ってきたいうのだ。

私もこの見方に心から同意する。私たちの「皮膚感覚」が健在であるかぎり、日本が何らかの危機に陥っても、再びもとの日本へと戻ることが出来るのではないだろうか。たとえばグローバリズムやTPPなどによって極端な市場原理主義や新自由主義の経済が蔓延したとしても、これは「和」と「共生」の原理に合わないと「皮膚感覚」で感じるかぎり、再び排除するか、日本人の肌に合った共生の資本主義へと変えていく可能性があると思う。もちろん最初からそれらに侵されないに越したことはないが。私たちの「本能的感覚」がまだ生きていて働いてくれるかどうかだ。

さて、「本能的感覚」や「皮膚感覚」という形で日本人が無意識のうちにもっている根本原理とは何なのか。「和」や「共生」といってもいいが、少し漠然としすぎている。そこで、これまでこのブログで追求してきた、日本文化のユニークさ8項目に沿って検討しよう。

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。

日本人が、自分たちの文化の根本原理に合うかどうかを本能的に嗅ぎ分ける規準は、おそらく縄文時代以来受け継いできた深層の記憶だ。本格的な農業を伴わない新石器文化という、世界的にも特異な縄文文化を、私たちの祖先は1万年以上生きてきた。新石器時代の人類としては類を見ない、本格的農耕を伴わない「自然との共生」を、世界の他地域よりも驚くほど長期にわたって保ち続けていたのである。その体験の記憶が、私たちの価値観の根底に生きていたとしても不思議ではない。

今に至るまで生き続ける縄文時代の記憶。そのひとつは、豊かな「自然との共生」を基盤とする宗教的な心性である。たとえば、現代の日本人がもっている「人為」と「無為」についての感じ方をみよう。日本人は傾向として、意識的・作為的に何かを「する」ことよりも、計らいはよくない、自然のまま、あるがままの方がよい、という価値観をかなり普遍的に共有していないだろうか。私たちの美意識の中にもそういう傾向が色濃く残っていて、けばけばしい作為的、人工的な美よりも、自然にかぎりなく近い、計らいのない美しさにひかれる。

こうした傾向は、老荘思想や仏教の影響から来ているともいえなくもないが、それ以前の私たちの祖先の生活がつよく影響しているのではないか。農耕という、ある意味で作為的な営みよりもはるかに長く、自然と「共生」する生き方を続けていた縄文人の記憶が、弥生時代以降も残り続け、それが老荘思想や仏教思想と共鳴し、現代人の心の中にまで連綿と受継がれてきたのではないか。

ふたつには、農耕の発達にともなう階級の形成や、巨大権力による統治を知らない平等な社会が1万数千年も続いたことから来る強い平等意識である。縄文時代は、素朴で平和な共同体を営み、支配・被支配の関係がほとんどない平等社会だった。たしかに縄文中期以降は、階級差を示唆する遺跡も存在するが、巨大権力は生まれなかった。それは、先に見たように縄文社会が妻問婚に基づく女系社会だったことによるのかもしれない。自然に恵まれ山海の幸が豊かだったため、穀物農業をあえて受容せずに済んだからかもしれない。穀物は貯蓄が容易なため貧富や階級差が生まれやすいのだ。いずれにせよ、階級差の少ない長い平和な時代の体験が、その後の日本に何らかの影響を与えていったのは確かであろう。

縄文時代の記憶が、のちの時代に生き残っていった理由は次のようなものだろう。第一に、縄文時代から弥生時代への移行が、弥生人による縄文人の征服、縄文文化の圧殺という形で行われたのではなく、両者の融合というかたちで進んだこと。そのため縄文文化が濃厚に引き継がれたのである。第二に、日本列島は、国土の大半が山林地帯だったこと。日本の水田稲作の特徴は、狭小な平野や山間の盆地などで、ほぼ村人たちの独力で、つまり国家の力に頼らずに、灌漑設備や溜池などを整備してきたことだ。つまり巨大な権力やその維持のための強力なイデオロギーは必要なく、そのため縄文時代以来のアニミズム的心性や平等主義の文化が圧殺されにくかったのである。

こうして、縄文人の一万数千年の記憶が日本人の心の中の生き続けた。またそれが無自覚の規準となって、その基準に合わないものは排除したり、変形したりしようとする原動力となったのであろう。

(2)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。

縄文時代の母性原理の社会という特徴は、つい最近も論じたばかりなのでここでは繰り返さない。「自然との共生」とは、「母なる自然」の懐に抱かれて生きるという意味である。縄文以来の母性原理を基盤にした文化は、現代に至るまで私たちの心の中に連綿と続いている。そしてこれもまた私たちの内面で強烈なフィルターとなっていて、あまりに父性原理的な制度や文化には、拒否反応を示す。キリスト教が日本でほとんど広まらないのは、その強烈な父性原理のためだともいえよう。

さて、8項目のうち残りの(3)~(8)ついては、次回に回すことにしたい。

《関連記事》
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現代人の心に生きる縄文02縄文語の心
平等社会の根は縄文か:現代人の心に生きる縄文03
縄文の蛇は今も生きる:現代人の心に生きる縄文04

《関連図書》
文明の環境史観 (中公叢書)
対論 文明の原理を問う
一神教の闇―アニミズムの復権 (ちくま新書)
環境と文明の世界史―人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ (新書y)
環境考古学事始―日本列島2万年の自然環境史 (洋泉社MC新書)
蛇と十字架

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