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震災後、日本は何を生み出すのか07:贈与と媒介の文明

2012年05月11日 | 自然の豊かさと脅威の中で
◆『日本の大転換 (集英社新書)
◆『資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか

『日本の大転換』で中沢氏は、新たなエネルギー革命とそれによる経済システムの変化は、それ以前の文明からの質的な転換を伴うだろうし、そうでなければいけないと指摘する。その転換は、以下のような特徴をもっているという。

① 生態圏の生成の原理を断ち切るのではなく、そこに立ち戻ってそこから新たな豊かさを生み出す文明への転換。

② 生態圏に属するものは、すべて全体とのバランスの中で相互に「媒介」し合っている。その「媒介」性に根ざす文明への転換。

③ 近代文明が忘れ去っていた「贈与」の次元を取り戻し、根幹とする文明への転換。

上でいう全体性や媒介性という考え方は、仏教でいう縁起(全体が相互に依存してなりたつ)の世界観に近い。

ところが、初期の資本主義が、「第5次エネルギー革命」(産業革命をともなう)の主燃料である石炭ときわめて親和性が高かったように、現代のグローバル資本主義は、「第7次エネルギー革命」を導き出した原子力の構造と、多くの同型性をしめすという。グローバル資本主義も原子力もともに、媒介性を切断する性格をもっているからだ。

原子力発電の技術は、もともと生態圏内に存在しなかったエネルギー現象を、生態圏の内部に無媒介にもちこむ技術であることはすでにもかんたんに触れた。原子力は、生態圏の全体とのバランスのなかでの相互依存性に組み込まれていず、それゆえひとたび大事故が起これば生態圏に決定的なダメージを与えてしまう。

人間は生態圏の内部に、それに依存しながら「社会」という「サブ生態圏」を作っている。「市場メカニズム」は、そのサブ生態圏内部で、それとは異質の原理で運動する。社会というサブ生態圏内部でのさまざまな相互依存関係を無視して独自の展開をしながらサブ生態圏を破壊するのだ。「第7次エネルギー革命」のもとで発展したグローバル資本主義は、この市場メカニズムの力で社会全体に深刻な影響を及ぼしている。世界各地で進む貧富の格差も、国家間の格差も、ヨーロッパ経済の危機さえも、グローバル化した市場メカニズムの破壊作用によるといえよう。

原子力とグローバル資本主義は、生態圏に対して異質な、「媒介性」を無視した運動をすることで、ともによく似た兄弟同士のような構造をもっているのだ。また原子炉は、核分裂反応が続かなければ稼働できず、資本主義も成長を続けなければ衰退する。この点でも両者はよく似ている。

サブ生態圏である社会は、一人一人の生身の人間の心のつながりでできている。さまざまなネットワークを通じて人間相互の心のつながりを維持することで社会は成り立つ。社会である以上、人間同士を結びつけようとする作用が内在している。個人間や集団相互間でなにかの交換が行なわれるときにも、モノにまとわる所有者の縁まで手渡されていくから、そこに必ず値段に還元できないプラスαが組み込まれる。そのとき交換は「贈与」の性格をおびるという。

生態圏もまた独立したモノ相互のたんなる交換ではなく、相互に依存しあう存在同士が「贈与」し合う関係によって成り立っているといってよい。サブ生態圏である社会も、さまざまな縁をもった人間相互の「贈与」関係によって成り立つ。家族でも職場でもサークルでも他のどのような組織や集団でも、互いに信頼し合ったり助け合ったりして成り立っている部分が大きい。それはたんなる「交換」関係ではない。

ところが市場に持ち込まれた商品は、すべての「縁」を断ち切られて、たんなるモノとして交換される。いっさいの「縁」を切り捨てられたモノなど生態圏には存在しないが、あたかも存在するかのようにして交換がなりたつのが、市場のメカニズムだ。グローバル資本主義は、そのメカニズムを巨大化して、生態圏もサブ生態圏もともに破壊していく。

原子力発電が稼働するまでは、人間が利用するすべてのエネルギーは、何らかかたちで太陽から「贈与」されたエネルギーを変換したものだった。人間は、それを漠然とでも感じ取っていた。原子力発電が動き出すと、「小さな太陽」を生態圏内に作ったのだと驕って、「贈与」によって自分たちの生存が成り立っていることを忘れてしまった。

第8次エネルギー革命は、「贈与」としての太陽エネルギーを媒介・変換する新しい技術を開発する方向で展開するだろうと中沢氏はいう。彼は、来るべきエネルギー革命の原型を植物の光合成に見出し、電子技術で光合成を模倣した太陽光発電が、新エネルギー革命の初期段階で重要な働きをするだろうという。この結論はあまりに平凡であり、現段階では従来のエネルギー源に比べあまりに発電力が小さい。

しかし一たび目標が定まったときの日本の技術開発力は過去にも実績があるから、太陽光発電に限らず「自然エネルギー」分野で飛躍的に技術開発が進む可能性は十分にありえるだろう。

前回、新たなエネルギー革命が起こるとすれば日本にその好条件がそろっていることを5項目挙げて指摘した。その5番目は次のようなものであった。

5)金融資本主義による国民経済の破壊の度合が少なく、一神教的ではない独自の文化に根ざした経済システムを構築できる余地を残している。

冒頭で、新たなエネルギー革命とそれによる経済システムの変化が、三つの特徴をもつ文明の質的な転換になるだろうという主張を紹介した。日本文明は、近代以前にこの三つの特徴を備えた、自然との「媒介型」の文明を築いていたのである。今でも、それはすべて消滅したわけではない。日本は、そういう自分たちの過去の文明を思い出すことによって、そこから文明の転換を成し遂げていく可能性をもっているのではないか。次回は、その可能性をもう少し探っていきたい。

《参考図書》
ニッポンの底力 (講談社プラスアルファ新書)
日本の大転換 (集英社新書)
資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか
日本人て、なんですか?
日本復興(ジャパン・ルネッサンス)の鍵 受け身力
日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること (MURC BUSINESS SERIES 特別版)


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7 コメント

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Unknown (名無し)
2012-05-12 07:13:35
日本でコストの安い発電法が開発できたらよいですね。
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Unknown (名無し)
2012-05-12 07:44:49
日本でコストの安い発電法が開発できたらよいですね。ちょっと前まで脱ダムだーって言って、ダムは環境を破壊するって言ってましたが、最近は揚水発電などの水力発電がもてはやされてますね。ちょっと前まで二酸化炭素が地球温暖化を引き起こすから、火力発電は有害だーって言ってましたが、現在はフル稼働です。京都議定書って何でしたっけ?
ちょっと前まで原発はクリーンエネルギーだーって言ってましたが、震災以降、もっとも危険な発電法になってしまいました。
震災で日本の世論が90度変わってしまいました。原発を止めたまま状況が変わらないと、貿易立国としての日本の死が迫ってきます。日本でエネルギー革命が起きて、安い電気が供給されればいいなあと心底思いますが、今無いものに期待してると手遅れになりそうで怖いです。
或いは、経済大国の地位を捨てて、エネルギー消費の少ない生活に転換するのも一つの方法ですね。
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Unknown (Unknown)
2012-05-12 13:31:28
冷静に考えますとM9.0クラスの地震がすぐに
起こる可能性ってかなり低いと思います。
仮に起きても電源さえ確保できれば冷却装置は
止まりません。
福島の悲劇は予備電源も止まってしまった事です。
これさえクリアすれば再稼動もアリだと考えます。
もちろん将来的には別のクリーンエネルギーを
模索すべきですが今は原発再稼動が無難だと
考えます。
福島事故が起きる前からこういう風潮であったならば私も原発廃止賛成に回ったと思いますが
今のヒステリックな状況を好きになれませんね。極論は別の極論を呼ぶことになりそれが争いの元になり危険だというのが持論です。
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メタンハイドレート (cooljapan)
2012-05-12 15:12:35
名無しさんへ、

私は、日本海側のメタンハイドレートをきちんと調査すべきだと思っているのですが、これについてはブログで少し触れるかもしれません。
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なぜ調査しないのか (cooljapan)
2012-05-12 15:17:00
>福島事故が起きる前からこういう風潮であったならば私も原発廃止賛成に回ったと思いますが
今のヒステリックな状況を好きになれませんね。極論は別の極論を呼ぶことになりそれが争いの元になり危険だというのが持論です。

確かに冷静さを欠く論争はあまりよくないですね。先ほども書きましたが、私は日本海側のメタンハイドレートをなぜきちんと調査しないのか不思議でなりません。
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日本海側メタンハイドレード (名無し)
2012-05-12 15:51:56
日本海側に採掘が容易な鉱床があるって書いてある地質や資源の論文は読んだことがありません。
確か水産資源が専門の方が魚群探知機を改造して探査したと聞いたことがありますが、レポートの数も少なく、あまり相手にされていないようです。探査船ちきゅうなどを動かすには役所と太いパイプを持った政治力の強い先生の後押しが必要です。専門外の方に政治力があるはずもないですよね。海洋調査船は数に限りがあり、乗って研究したい人はたくさんいるので、今後も調査は無理でしょうね。
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ブログで触れます (cooljapan)
2012-05-12 18:22:37
>確か水産資源が専門の方が魚群探知機を改造して探査したと聞いたことがありますが、レポートの数も少なく、あまり相手にされていないようです。

これは独立総合研究所の青山千春博士と所長の青山繁晴氏のことだと思います。このお二人と東大の研究者が協力して調査しており、私はこの調査結果に前々から関心をもっています。それについてブログで少し触れようと思っています。
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