2013年9月20日 サンフランシスコ5日め―その1

2013年09月20日 | 風の旅人日乗


願っていた通りに早起きできたので、
9月18日に行なわれた第11レースで
自分なりに観たことをメモにして
忘れないうちに書き留めます。

スタート:
強い引き潮の中、
スタートライン風下側のマークへのレイラインの
ずいぶん風下で返したETNZの、高さと、ラインへの距離は、
結果としてベストの位置だった。



スピットヒルにとって、
あの位置で、あの高さで返されては、
時間的にも位置的にも、
風下に入り込むことは困難だっただろう。
ETNZのファインプレーを褒めるべきだと思う。

ちなみに9月19日の第12レースでは、
ETNZが返した位置がラインに近すぎ、
スピードコントロールするために
風上に上らざるを得ず、
その隙にスピットヒルが風下に潜り込んで立場が逆転した。

しかしそれは、観る者がこの様子を俯瞰で観ることができるから
解説できることであって、
強い潮の中、すぐ30ktも出るような艇に乗って、
瞬時、瞬時に、難しい判断を迫られ続けている2隻のクルーたちに対して、
おいらが何か偉そうに言えることではないね。


第1レグ:
ETNZは相手よりも大きいジブを使っているが、
リーチが開き過ぎていて、
リーチング競争でOTUSAに負けていて、
折角スタートで勝ったのにそれを
生かし切れていない。



風下ゲート:
最終アプローチでETNZが失速し、
思ったよりも相手に近づき過ぎたOTUSAは
当初のプランだったろうゲートの右側(風上に向かって)
を回ることができなくなり、
ゲート回航直前でプランを急遽変更して、
ジャイブして左側ゲートを回ることになった。

このマニューバーは、ダガーボードの入れ替え、
ウイングとジブの入れ替え、
ウイング、ジブの引き込みが一気に連続し、
超忙しいクルーワークと超ハードなグラインディングを
クルーに要求することになる。

しかしOTUSAのクルーたちは見事にそれに応え、
見事なマークラウンディングを行なった。


クローズホールドのレグ:
スターボタックの強さを使える右と、
追い潮と有利な風のシフトを使える左と、
それらを使い分けながら、
最終的には左から風上ゲートの右側マークにアプローチする。

そういうプランを両者が獲り合うレグになった。

OTUSAのクローズホールドと、タッキングが
このレースから見違えるようになった。

風上ゲートへの最終アプローチは、
ETNZが、両チームともが狙っていた左からのアプローチをゲットし、
OTUSAは右からのアプローチになった。

ここで左のシフトが入り、
ETNZは30ktのスピードモードでゲート右側のマークに突進。
OTUSAは最後のタックでボトムスピードが10ktという失敗をした上に
ゲートの左側マークへ、20kt台のスピードでしか向かえなかった。
ここで大きな差がついてしまう。

サンフランシスコ湾の引き潮のときは、
ビッグボートシリーズの上マーク回航でも
即ジャイブして向かい潮から逃げるのが常道で、
マニューバリング的に即ジャイブすることはよくないAC72では、
引き潮のときに風上ゲートの左側を回ることは
相当な損になることだろう。

しかしそれでも、上りのレグの最後の局面で
左シフトがなく、またOTUSAのタック失敗がなければ
風上ゲートでの差は10秒以上縮まっていたと思われ、
そうであれば、
そのあとのダウンウインドのスピード差を考えれば、
このレースでETNZが勝てたかどうかは、微妙だ。

もしこのレースをOTUSAが制していれば、
ETNZを精神的に大いに苦しめることにつながり、
このアメリカズカップ自体の流れも大きく変わったはず。

であれば、この第11レースのクローズホールドは、
あるいはTUSAの最後のタックの失敗は、
シリーズ全体の流れの中で
大きな意味を持つことになるかもしれない。

いずれにしても、
素晴らしくレベルの高いマッチレースを
未来から来たようなセーリング艇で繰り広げている
両チームのことが、セーラーとして誇らしい。



もっともっと、この2チームによる、
AC72のレースを見続けたいと願う。




2013年9月19日 サンフランシスコ4日め―その3

2013年09月20日 | 風の旅人日乗
さて、本日3回めの更新は、
真面目に、今日行なわれた第12レースについて。



オラクルチームUSAのクローズホールドが変わった。

昨日の第11レースは負けたものの、
風上ゲート直前での位置の取り合いによっては、
どちらに軍配が上がるか、分からないような試合だった

オラクルのタッキングが、ものすごく向上した。

ラフィングから風位を越えてすぐ、
風上側のハルを浮かせ、
つまり、モノハルのロールタックのような艇の動きで、
2つのハルが水に浸かっている時間を最短にして、
タック後のボトムスピードを高いまま維持し、
スピードの回復を早められるようになった。

補足説明すると、ボトムスピードとは、
タッキングするとヨットのスピードが落ちますが、
そのタッキング中の最低スピードのこと。

ちなみに、ヨットレースで言う「いいタック」とは、
このボトムスピードを高いまま維持し、
その後、本来のスピードまで
素早く回復させるタックのこと。

そしてさらに、今日の第12レースでは、
オラクルは、クローズホールドでのフォイリングを実現させた。



しかも、
チームニュージーランドよりも早いタイミングで。



今日のオラクルが発表したコメントによると、
オラクルの艇の場合、
クローズホールドでフォイリングさせると、
風上への角度は5度悪くなるのだという。
しかし、VMG(風上に向かっての実効スピード)は良くなるのだという。



ヨットレースだから、
戦術的に、相手艇に対して高さを保持しなければならない場面がある。
だから、いつもフォイリングさせるわけにはいかない。

モノハル艇でのレースのクローズホールドと同じように、
ハイモードとスピードモードを使い分ける必要がある。

しかし、モノハル艇の場合、
そのモード切り替えによるスピード差は、
長さが72ftサイズのレース艇でも、1ktはない。

しかしAC72の場合、2つのモードによるスピード差は、
今日のオラクルを観る限り、5kt以上もある。

例えばヘッダーを見つけ、
それに向かって行くことを決め、
スピードモードに変えたとき、
ハイモードに比べて5ktものスピード差で
そのヘッダーに向かえることになる。

フォイリングモス以外の
モノハル艇でのレースしか知らない者に取っては、
革命的ですらある。

こんなにスピード差のあるモードを、
戦術、戦略と融合させて
思いのままに使い分けることができれば、
そのヨットは、とんでもない兵器を手に入れたことになる。

しかもそのスピードでヘッダーに入り、タッキングすると、
タッキングのロスも少なくなる。

今日、オラクルが見せた最高のタッキングでは、
ボトムスピードは、なんと17kt以上だった。

眠れる獅子が、起きたのか。



現実的には、
オラクルがこのあと一度も負けずに7連勝することは
神懸かりに近いことかもしれない。

しかし、防衛艇の驚異的な進化によって、
第34回アメリカズカップは、
スポーツイベントとしてとても見応えのある内容になってきた。


というところで、突然ですが、
明日こそは寝坊しないように、今日はもう寝ます。
ではね、おやすみなさい。

サンフランシスコは、今夜もきれいな月が出ています。
明日はどんな試合が観られるんでしょうね。



2013年9月19日 サンフランシスコ4日め―その2

2013年09月20日 | 風の旅人日乗
午前11時前に、ピア27のアメリカズカップ・ビレッジに到着。

本日のエピソードその1も、
申し訳ないが、またメディアセンターの男子トイレの話題。

トイレに入ると、
鏡の前で、自分の頭にスプレーを噴射しまくっている男がいて、ギョッとする。
それを周りの男子ジャーナリストや男子カメラマンがはやし立てている。
男子トイレじゅう、すごく香しい匂いで満ちている。


アメリカズカップのYouTube中継で、レースとレースの間に、
その日の陸上解説者の話を司会しているこの人、いますよね?



今朝のメディアセンターの男子トイレの人気者はこの人でした。

日本にいるときに動画を観ていて、
つまらないことだけど、ずっと気になっていたことがある。
サンフランシスコ湾の強い風に当たっているはずなのに、
なぜこの人の髪は動かないのだろう?

今朝理由が分かりました。
あれだけ髪をスプレーで固めたら、動きようがない。

ちなみに上の写真は本日の動画のスクリーンショットで、
2レースめが延期になったほどのサンフランシスコ湾の強風は
画面の左から右に吹いているのだが、
この人の跳ねた髪は、風上に向かって立っている。
恐るべし。



メイン会場で、クルーたちを紹介する
ドックアウトショーが行なわれている最中、
チームニュージーランドのコーチ、ジョーイ・アレンが、
オラクルの艇建造チームのボスの、マイク・ターナーと、
桟橋で話し込んでいた。

同じニュージーランド人で、古い友達同士とは言え、
この決戦の雰囲気の中では、まずいんじゃないの、ジョーイ?

出港しようとしているチームニュージーランドの
チェイスボートのクルーたちが、ジョーイを大声で呼ぶが気が付かない。



やっと気が付きボートに乗ったけど、
同じくコーチのロッド・デイビスから、
えらく怒られていた。



現役を引退してコーチになっても、
ジョーイの愛すべきキャラクターは変わってないみたい。


チームニュージーランドのサポート艇のエンジンはヤマハ。
オラクルチームUSAのサポート艇のエンジンはヤンマー。
チームニュージーランドのメインスポンサーのひとつはトヨタ。
オラクルチームUSAのメインスポンサーのひとつはヤンマー。
サプライヤーのひとつはパナソニック。
オラクルチームUSAのサプライヤーであり、
かつアメリカズカップのオフィシャルカーになっているのは、レクサス。

そのレクサスのブースで、レクサスブランドのロードレーサーを発見。



いいなあ。





さすがレクサス、分かってらっしゃる
サドル以外はホイールもコンポーネントも、
日本が誇るシマノのデュラエース。

世界に誇る日本製品、あるいは企業名があふれるアメリカズカップの現場にあって
日本セーリング界の要人だけがいなかった
という、ちょっと悲しい話を朝からしてしまいました。
反省。



もっとこの面白いレースを観たいから、
頑張って欲しいぞ、オラクルチームUSA。

今の状態まで進化したオラクルチームUSAであれば、
マッチポイントまで追い込まれていなければ、
アメリカズカップを防衛できたかもしれない。
でも、「たられば」の世界に近い。


再びメディアセンターから歩いて、
ピア39とフィッシャーマンズワーフを通り抜けて
フォートメイスンの丘に向かう。



スタート海面に向かう<アオテアロア>が、
クローズホールドのレグをゆっくり走りながら
コースを丁寧にチェックしている。
ヨットレースの基本に忠実だね。



ここがおいらの本日の観戦場所。
椅子を持ってきて座っている
お年寄りかこども連れのすぐ後ろが
視界確保がほぼ約束される安心な立ち位置。
そのお年寄りや少年少女の前に立とうとする人は、
さすがにいないから。

近くに、アメリカズカップのアプリをダウンロードした
スマホを持っている人がいると、さらに好ましい。
風とか潮とかの中継解説を聞かせてくれるし、
親切な人になると、
艇の上の様子の中継画面を見せてくれさえする。


スタートして2隻が第1マークを回ったら、
レース艇と一緒に移動して、



みんな2隻と一緒に丘を下り、
風下ゲートが見える位置まで移動する。

2隻が風下ゲートを回って
風上に上り始めたら、



みんなも2隻と一緒にぞろぞろと丘を登って、
風上ゲートが見える位置に移動する。



こんなヨットレース観戦法もあるんだな。




第12レースのエントリー時に、
腕時計の文字を入れて、臨場感のある写真を撮ろうとしたのだけれど、
時間は見えないし、レース艇もよく分からないな。
いいカメラが欲しいぜ。


2013年9月19日 サンフランシスコ4日め―その1

2013年09月20日 | 風の旅人日乗
さあて、いよいよ「その日」かも、の朝が来た。
本日も、サンフランシスコはいい天気。

「その日」かも、なのに、今日も寝坊。
当事者ではないというものの、
緊張感なく、情けないものだ。

なので、早朝に書こうとしていた
昨日のレースのレポート書く時間なく
後回しにして、これからピア27に出かける。

昨日の夕方、
街中の信号機の向こうにに昇ってきた
米国西海岸の、
中秋の名月。



日本列島に昇ってくるのは、
1日あとの日付の、8時間後、になるのかな?

第34回アメリカズカップ最後のレースになるかもしれない
今日の、第12レースの、クルーリスト。

ORACLE TEAM USA Crew List
Skipper: Jimmy Spithill (9),
Tactician: Ben Ainslie (12),
Strategist: Tom Slingsby (10),
Wing trimmer: Kyle Langford (8),
Jib trimmer: Joe Newton (5),
Off-side trimmer: Rome Kirby (4),
Grinders: Shannon Falcone (1),
Joe Spooner (2),
Jono MacBeth (3),
Gillo Nobili (6),
Simeon Tienpont (7)

Emirates Team New Zealand Crew List
Skipper/helmsman: Dean Barker (14),
Tactician: Ray Davies (10),
Wing Trimmer: Glenn Ashby (3),
Trimmer: James Dagg (9),
Bow: Adam Beashel (2),
Pit: Jeremy Lomas (8),
Pedestal 1: Chris Ward (7),
Pedestal 2: Rob Waddell (11),
Pedestal 3: Grant Dalton (6),
Pedestal 4: Chris McAsey (5),
Float/Grinder: Derek Saward (12)

それぞれのカッコ内の数字は、
ヘルメットに書かれている番号。

以前ぼくが、Facebookか何かに、
チームニュージーランドのセーリングチームが
NZ人だけと書いたのは間違っていました。
2人のオーストラリア人も乗っています。

アダム・ビーシェルは、考えてみれば、ずいぶん前から
チームニュージーランドのメンバーだったし、
グレン・アシュビーは、
今回の艇の設計にも深く関わっている。

アシュビーは複数のマルチハル艇で
圧倒的な戦績を持つチャンピオンで、
ウイングを持ち、フォイリングもする
Aクラスカタマランを最も得意な艇種としている。

今回のレースで、
チームニュージーランドの
タッキングやジャイビングなどのマニューバーが
USAよりも長けていたのは(ワッ、もう過去形!)
アシュビーのコーチによるところが
大きいのではないか、と思う。
フォイリングが安定していることにも、
設計開発あたりから貢献しているのではないか、と思う。

アシュビーは、2010年に怪物トライマランで
アメリカズカップにオラクルが勝ったときには、
オラクルのコーチだった。
オラクルはなぜアシュビーを手放したのでしょうね?