スカンジナビア漂流 ・北欧の海洋文化を辿る旅・ (1)

2009年08月25日 | 風の旅人日乗
 ドイツのキール港に面した公園に、朝から夥しい数の人たちが集まってきている。
 世界一周レースに参加したレーシングヨットたちがドイツ・キールのフィニッシュ・ラインに迫っている。9ヶ月かけて世界の海を走り、地球を一周してきた彼ら、海の英雄たちを出迎えようと集まった人々だ。

 夕方6時過ぎ、地元ドイツからの参加艇がトップでキール港の沖合に姿を現した。
 そしてそのトップ艇が、イギリス・サザンプトン沖のスタート・ラインから3万2千250マイルの距離に設置されたフィニッシュ・ラインを横切ると、長い長い岸壁に、幾重にも重なってびっしりと並んだ観衆が歓声を上げ、拳を突き上げる。
 200隻を越えるヨットやボートが祝福のホーンを鳴らしてそのドイツ艇を取り囲む。陸上の群集たちは身を乗り出して英雄たちの着岸を待つ。

 そのときぼくは、大帆船時代に新大陸を発見したコロンブスがヨーロッパに凱旋したときや、イギリスのスコットに先んじて人類として初めて南極点に立ったアムンセンがノルウエーに帰還したときの、当時の彼らを迎える港の光景を見たような気がした。

 これが日本だったら、と想像をめぐらせてみる。
 世界一周レースのフィニッシュ地が横浜の山下公園の前で、トップを走ってきているのが日本艇で、と仮定して、どれだけの人たちが歓迎してくれるだろうか、と。
 しかし残念なことに、現実感のあるものとして、その具体的光景をまぶたの裏にイメージすることができない。

 ヨーロッパの群集たちは、海から戻ってきた同朋たちをいつの時代もこんなふうに迎えていたのだろう。当時の探検家やセーラーたちは、国に繁栄と誇りをもたらす英雄だったのだろう。

 大航海時代の、自国の発展のために他国に犠牲を強い、それらを植民地化していった彼らの行為そのものには憤りを覚える。しかしそれはそれとして、現在のヨーロッパ諸国の海文化はその時代から現代まで直列で繋がっていて、だから、荒海を乗り越えて帰ってきた世界一周レースのセーラーたちは、現代のヒーローとして迎えられるのだ。

 彼らの海洋文化の歴史を知りたいと思った。
(続く)