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北海道が生んだ日本画家

2012-12-13 11:55:27 | 日記・エッセイ・コラム

 雪深くなると、ふと思い出す日本画家がいます。滝川の隣の村江部乙(今は滝川市)に生まれ青年前期まで過ごしたあと、東京に出て日本画家になった「岩橋英遠」です。

 この画伯のことを知ったのは、ぼくが道立近代美術館でボランティア美術解説員として活動しているときのことでした。中でも最も感動した作品に「道産子追憶之巻」があります。

 横29m縦67cmの長大な本彩色の日本画です。観るものを圧倒し、同時に解説するものにとっても心打たれ、つい自分の私情を入れたくなるほどの作品です。1978年から82年までかかったといわれるだけに画伯渾身の作品であることが伝わってきます。

 英遠自身が、永い人生の追憶と回想の中で、北海道への深い愛を精一杯表現した作品です。画面は、いわば英遠の芸術の原風景であり、移り変わる北海道の四季を冬から始まり、また冬へ、そして早朝から深夜まで一日の流れに重ねて描かれています。

 絵巻は親子熊の冬眠の寝顔から始まります。鬱蒼とした原生林、やがて朝日が白樺林を照らし始める頃、コブシの花が春を告げます。りんご畑の白い花は収穫へとどんどん広がっていきます。雨上がりにかかる虹も思わず心を和ませます。 短い夏に精を出す農家の人の黙々とした姿を想像させます。

 収穫期を迎え、足早にやってくる秋から冬への支度に急ぐ作業の農民の姿が神々しく見えます。夕焼けの空に飛ぶトンボの美しい遊泳は晩秋からもう冬が近いことを知らせます。遠くの山にはもう雪化粧をしています。

 そしてふたたび寒く長い冬と長い夜がやってきます。雪囲いや積みわらがどんどんできていきます。 しんしんと降り積もる雪の中に見え隠れする家。寒さをしのいでストーブを囲む一家団欒の様子。こうした一つ一つの風景はまさに英遠の人生そのものだったのです。

 

 満月に照らされて白く茫漠とした中に咲く大きなエルムの樹の下で、行進する屯田兵たちをじっと見つめる少年の姿、幼き日の英遠の自画像でもあるのでしょう。

 

 この作品は、80歳を前にして数年かけた大作です。

 岩橋英遠は、1994年文化勲章を受け、その名をまさに永遠に残しました。それから5年後94歳でこの世と別れを告げました。北海道が誇るべき至宝だと思っています。

 一年に1回くらいは美術館で展示されるかも知れないので、機会があればぜひご覧いただきたい推薦作品です。

やさしいタイガー

 


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