市電のある駅から白杖の中年の男性が乗ってきました。車内は空いた席もなく幾人か立っていましたから満席という状態の中でその人は走り出した電車に杖を頼りにたっていました。ぼくはその人の2,3人前の席に座っていました。突然ぼくの隣の女性が立ち上がったので席を譲るのかと思っていたら、黙って言葉もかけず前に向かって歩き出しました。ひとつ空いた席にだれも座る様子もなく、白杖の人にも声をかけないのです。揺れる電車に我慢して立っていたので、ぼくが「ここが空きましたよ。よかったらおかけになりますか」と近くに行って声をかけました。
「恐れ入ります。ありがとうございます」と素直にそこに座られました。ぼくは「そこはちょうど電車の真ん中あたりの席ですから、降りるとき少し歩いてくださいね」と声をかけ「お気をつけて」と言ってぼくは目的地で降りました。
あの席を立った女性はご自分の近くにいる白杖の人に譲るためなのか、それともちょうど降りる駅が近づいたから腰を上げたのかはわかりませんが、それにしても一言も声もかけず、無愛想に去っていった姿はなんともいえない不快感をうけました。ひとこと「どうぞ」といえない日本人の品疎なマナーを見た思いがしました。
大衆の中ではっきりと自分の意思を伝えて微笑ましい雰囲気を作るのはそれほど難しいものでしょうか。これではなかなか美しい国にはなれないようですね。
やさしいタイガー