ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科の減少 産める場所はどこに

2006年05月21日 | 地域周産期医療

****** 参考

読売新聞:[解説]産科医減少 対策は

朝日新聞:地域の病院が分娩から撤退 産婦人科医10年で8%減

朝日新聞:全国138病院が分娩休止 出産の場急減

朝日新聞 神奈川: どこで産むの?

****** 朝日新聞、2006年5月21日l

産科の減少 産める場所はどこに

 どこで産んだらいいの。

 出産を待つ女性たちの間に不安が広がっている。全国各地で産婦人科の医師が次々と辞めていき、産科を休止する病院が続出しているからだ。

 大都市とその周辺も例外ではない。

 埼玉県草加市では年間約800件の出産があった市立病院で去年春から産科が休止になったままだ。5人の産婦人科医が相次いで辞めた。関連の大学病院などを通じて医師を探しているが、みつからない。人口23万人の市で出産できるのは診療所1カ所のみになってしまった。

 神奈川県横須賀市では年間千件の出産を扱っていた私立病院が分娩(ぶんべん)をやめた。そのしわ寄せが隣の横浜市に及び、大きな病院の産科はパンク状態だ。

 近畿地方の減少ぶりも目を引く。大阪府でも神戸市でも、地域医療の中核病院から産科が姿を消し始めた。

 産科・産婦人科があった全国の1665病院のうち138カ所がこの4月末までの1年半の間に分娩の取り扱いをやめたことが本社の調査でわかった。8%もの減りようだ。

 理由は、はっきりしている。激務に耐えかねて辞める医師が多いうえ、産婦人科を志す若い医師が減っているからだ。

 出産は昼夜の別なく対応が迫られ、当直が多い。母子の命にかかわることもあり、他の診療科と比べて訴訟が多い。なのに、負担に見合った報酬がない。

 広い地域のお産をたったひとりで担う1人医長の病院が少なくない。燃え尽きた誰かが辞めると、踏みとどまっている医師の負担がさらに増す。悪循環だ。

 日本産科婦人科学会では分散している産科医を、基幹病院に3人以上集めて医療の質を高める提言をした。国も、このような集約化を打ち出している。

 高齢出産でリスクを抱える妊婦が増えている。母子の安全を考えれば、当面はやむを得ない対応だろう。しかし、妊婦にとっては病院が遠くなる。定期検診に通う病院と出産する病院が別々になる不安もある。カルテの共有など、病院や診療所間で連携を密にすることが大切だ。やはり不足している助産師との効率のよい協力も進めたい。

 安心して子どもを産めるよう、国が抜本的な対策を急がなくてはならない。

 思い切って産科の診療報酬を上げ、医師の健康と生活を守れる労働条件を整えることが必要だ。医学生には、産科や小児科に限って返済のいらない奨学金を出すことを考えてもいい。

 産婦人科医に女性の割合が高いことも不足の一因になっている。現状では自身の家庭生活と両立させることがむずかしく、職場を去る人が後を絶たない。

 彼女らに復帰してもらえるよう研修や子育て支援を充実させたい。一定の報酬を保証したうえで、複数で仕事を分け合う勤務態勢を工夫できないものか。

 このままだと、近い将来、産む場所が見つけられない大量の「出産難民」が出てしまいそうだ。