ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日本産科婦人科学会が厚生労働大臣と意見交換・医療紛争解決に中立機関を要望

2006年05月25日 | 地域周産期医療

日本産科婦人科学会ホームページ

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_24MAY2006.html

                                                              (平成18年5月24日)

                                       お知らせ

昨日(5月23日)午後5時過ぎより約1時間40分に亘り、厚生労働省大臣室に於いて、川崎二郎厚生労働大臣と産科関係者による産科医療に関する意見交換が行われ、本会から武谷理事長が出席されました。懇談会は川崎大臣の挨拶、産科関係者6名による意見陳述、自由議論の順で進行され、活発な意見交換が行われました。

武谷理事長より、産婦人科医師不足の現状、世界に誇る日本の周産期医療レベル、ハイリスク妊娠の増加、産科医の過酷な労働環境、訴訟リスク、医師法21条問題等に関して意見を述べられました。その中でも特に最近の産婦人科医師逮捕、起訴の事例の産科医療に与えた衝撃の大きさから無過失補償制度の早期創設及び医事紛争処理機構として中立的第3者機関の設置を要望致しました。

川崎大臣からは、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業、診療報酬、集約化等につき質問があり、産科関係者との意見交換が行われました。最後に川崎大臣より産科の方が小児科よりも一層深刻な状況であるとの認識が示された後、国民に対し産科医療に関わる行政の方向性につきメッセージを出すことが確認されました。

(本会の提出資料及び懇談会の参加者につきましては添付ファイルをご参照下さい。)

社団法人 日本産科婦人科学会
広報委員長 稲葉憲之

****** 提出資料
http://www.jsog.or.jp/about_us/html/shiryou_24may2006.html

                  平成18年5月23日
           日本産科婦人科学会理事長
                                                   武谷雄二

      我が国の産科医療の現状・問題点・対策
―日本産科婦人科学会(以下、学会)の立場から

1.現状認識:我が国の産科医療水準は現時点では依然として極めて高いレベルで維持されているが、産婦人科医の絶対数の減少と若い年代での女性医師の占める割合の急激な増加により、これまでどおりの産科医療提供体制を維持することは事実上不可能な状況に陥っている。

①地域の基幹病院で、勤務産婦人科医数の実質的著減が起きている。
②分娩の約半数を取り扱ってきた有床診療所において、分娩取扱を中止する施設が増加している。
③助産師は病院施設に偏在しており、有床診療所では非常に少ない。

2.問題点と対策:産婦人科学の発展と産婦人科専門医養成に責任を有する学会の立場から、産婦人科の新規専攻医の確保を重視する観点で、問題点とその対策について述べる。

(ア)医療紛争問題:訴訟リスクの高さが産婦人科専攻を考慮する際の最大の障害。

①中立的医療紛争処理機構の創設:
② 「無過失補償制度」の早期創設:「分娩時障害による脳性麻痺」及び「妊産婦死亡」を対象とすることを希望する。

(イ)地域産婦人科医療提供体制の迅速な整備:安全確保を前提とした医療提供体制の合理化、病院勤務医の勤務条件と待遇の改善、初期・後期研修の充実、研修後の多様な進路保証、有床診療所経営の安定化。

①病院産婦人科医療の迅速かつ広範な、自治体・公立・公的病院の枠にとらわれない集約化の推進:

  1. 地域医療の組織化、基幹病院集約化と施設あたり産婦人科医数増加の同時実現 が必要。病院産婦人科の勤務条件を他の診療科とほぼ同等にする。
  2. 離脱しつつある産婦人科医をとどめるため、待遇面での誘導 が必要。
  3. 地域医療担当者に対する指導:集約化前倒策、地域医療計画策定時の現場の産婦人科医を含む医療関係者の意見重視、(一部の地区の行政担当者、公的病院管理者が大学産婦人科に対して、「社会的責任」と称して過酷な勤務条件のまま派遣要請を続けて責任を転嫁する事例が続発している。)

②病院産婦人科医の勤務条件と待遇の改善:

  1. 集約化する基幹病院の迅速な定員増と人員確保策の推進
  2. 勤務医に対する労働内容に応じた報酬。
  3. (保育所整備等を含む)適切な医師勤務条件を整備した医療機関に対する診療報酬加算等の導入。

③分娩料の引き上げを可能にする条件の整備:

  1. 出産育児一時金の大幅な引き上げ(60万円程度)。地域所得格差を考慮した地域独自の付加的な出産一時金の創設。里帰り分娩に対する地方側の負担軽減策の導入。
  2. 地域の公的・公立病院における分娩料設定に関する自立性を促進するための制度整備、地方自治体に対する指導。

(ウ)助産師養成数の大幅増加を可能とする助産師教育研修制度の改正:

****** 出席者について(写真あり)
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/shussekisha_H18_5_24.pdf

「shussekisha_H18_5_24.pdf」をダウンロード

****** 参考記事:

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?


日本医師会ホームページ:茨城県医師会 萎縮医療に陥らないために

2006年05月25日 | 大野病院事件

日医白クマ通信 No.397、2006年5月15日
http://www.med.or.jp/shirokuma/no397.html

茨城県医師会 萎縮医療に陥らないために(概要)

 座談会「萎縮医療に陥らないために―困難な症例には対応しなくなる恐れ」が開催される。(概要)

 帝王切開による出産に際して、大量出血を生じ患者が死亡した責任を問われ福島県立大野病院産婦人科医師が逮捕された事件は医療界ばかりでなく社会的にも大きな波紋を投げかけました。

 医療を担う医師が外来診察中に逮捕されたことは、医療関係者に、最善を尽くしても犯罪者にされる恐れがあるという不安感を抱かせ、リスクを回避するために困難な症例には対応しなくなるという萎縮医療に陥る危険があります。

 茨城県医師会では、座談会「萎縮医療に陥らないために」を、5月10日、茨城県医師会館で開催しました。出席者は、泉 陽子茨城県保健福祉部医監兼次長、野口雅之筑波大学基礎医学系(病理)教授、藤原秀臣土浦協同病院長、小松 満茨城県医師会副会長(司会)、石渡 勇茨城県医師会常任理事、小沢忠彦茨城県医師会常任理事の6名でした。

 以下は、そこでの議論の抜粋です。

「このたび起きた産婦人科医師逮捕のような事態を避けるためには、医師法21 条の解釈を明確にする事はもちろんであるが、診療行為に関する死亡事故については、直ちに警察に届けるのではなく中立的な第3者機関にて検討する仕組みを作る必要がある」

「現在、茨城県でも実施されている『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』のような機関が有効ではないか」

「医師が萎縮医療に陥ることを防ぐためには、不可避的であった医療事故の場合、責任を医師個人に負わせるのではなく、病院組織全体として共有し、バックアップしていく体制がもとめられ、医師に責任が無くても、初期の目的に反して患者が不幸な転帰をたどった場合には 、国が補償をする「無過失補償制度」の創設が必要である」等の意見がありました。患者と医療機関との不毛な対立を解消するためには、茨城県医師会が全国に先駆けて創設した「医療問題中立処理委員会」が有効であろう等の意見交換が行われました。

文責:茨城県医師会副会長 小松 満
問い合わせ先:茨城県医師会 TEL:029-241-8446

******

日医白クマ通信 No.401、2006年5月18日
http://www.med.or.jp/shirokuma/no401.html

茨城県医師会◆座談会「萎縮医療に陥らないために」(抜粋)

 5月10日、茨城県医師会で行われた座談会「萎縮医療に陥らないために」の模様(抜粋)をお伝えします。(No.397で、概要は既報)

1.福島県立大野病院産婦人科医逮捕事件について
 福島県立大野病院産婦人科医師の逮捕刑事起訴は医療界に大きな衝撃をもたらした。医療を担う医師が何ら事前の連絡もなく、外来診療中に犯罪者の如く逮捕された。起訴理由は、第1に業務上過失致死(刑法第211条)と、第2に医師法違反(医師法第21条異状死の届出義務)である。

 外科系・産婦人科系諸団体より猛烈な抗議声明と当該医師および支援団体への支援が展開され、マスコミも大きく報道している。大学関連病院で産婦人科が一人しかいない132の施設では、分娩からの撤退を余儀なくされ、分娩医療機関の減少および重症患者・救急患者の受け入れが困難となり、萎縮医療に陥っている。

 問題は医師法21条の解釈である。医師法21条は昭和23年7月に制定されたものである。当初の立法趣旨は「医師が犯罪の発見と公安の維持に協力すること」であった。

 茨城県医師会は「福島事件に対する抗議声明文」を出すと共に、日本医師会に「異状死の定義(警察への届出が必要な症例の特定)と中立的異状死判定機関の創設」を求める要望書を提出した。

<異状死に関する各学会の解釈>
(1)「異状死」ガイドライン:日本法医学会/平成6年5月

 診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの。注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。診療行為の過誤や過失の有無を問わない。

(2)診療に関連した「異状死」:(社)日本外科学会声明/平成13年3月
 日本法医学会のガイドラインに対する抗議声明である。

(3)「診療行為に関連した患者の死亡・障害の報告」についてのガイドライン:外科関連10学会協議会/平成14年7月
 何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、または何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因となったと考えられる場合には、診療に従事した医師は、速やかに所轄警察署への報告を行うことが望ましい。

(4)中立的専門機関の設置 19学会/平成16年9月30日
 医療行為に関連した患者死亡の届出を受け、死体解剖を含めた分析と検証を行う中立的専門機関の設置が必要であり、その創設を速やかに実現するため、19学会が結集して努力すると決意。

(5)それを受けて、厚労省で「医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を開始したと受け止められる。

2.医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業について
 厚労省が推進するモデル事業で平成17年9月より開始された。全国(東京・大阪・愛知・兵庫・茨城・新潟)で15件の取り扱いがあった。しかし、従来通り、医師法21条の解釈があいまいなまま警察への届出が本事業よりも優先され、法医・病理・臨床医による解剖と死因の究明さらに事故防止対策というこのモデル事業の役割が生かされていない。

3.無過失補償制度について
 脳性麻痺と無過失補償制度創設に関しては日本医師会前執行部が取り組んだ。現執行部もこれを引き継ぎ、国会議員、地方議員などに設立への働きかけをすることになっている。産婦人科医療は脳性麻痺を主とした紛争・医療裁判が多く、臨床研修医及び医学生が産婦人科を志望しない要因となっている。当面、脳性麻痺を先行するが将来は全医療を対象とする。社会保障制度が充実した北欧は既にこの制度を取り入れている。

4.茨城県医療問題中立処理委員会について
 医事紛争の中には患者側の誤解により発生するものもある。現在、医事紛争が発生した場合、会員の要請により医師会内に医事紛争処理委員会が開かれているが、外部から見れば、医療側に偏っているとの誤解を受ける可能性がある。特に、患者側にとっては、医療側に過失ありとの裁定がなされた場合でも満足できず、ましてや過失がないとの裁定の場合は、度重なる要求も起きている。まず、紛争を解決するために、患者側・医療側双方が胸襟を開いて真摯に話し合い、互いの誤解を解くことができる場(中立委員会)を設けることが必要であり、茨城県医師会が中心となり、全国に先駆けて「茨城県医療問題中立処理委員会」を立ち上げた。今後の成果が期待される。

文責:茨城県医師会常任理事 石渡 勇
◆問い合わせ先:茨城県医師会 TEL:029-241-8446