ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

隠岐島内での出産再開不透明に

2006年05月11日 | 地域周産期医療

****** 中国新聞、2006年5月11日

隠岐島内での出産再開不透明に

 ▽産婦人科医が赴任保留

 島根県隠岐の島町の隠岐病院が、常勤の産婦人科医師を確保できず院内出産への対応を断念した問題で、後任候補だった安来市立病院の男性医師(62)が、現地での出産や診療のバックアップ体制の不安を理由に赴任を保留していることが、十日分かった。島内での出産再開への見通しは不透明となった。

 病院開設者の島田二郎安来市長が同日、会見で明らかにした。島田市長によると、島根大医学部産婦人科教授から要請を受け、隠岐病院への赴任の意志を固めた医師は、八日に辞表を提出。六月末に退職、七月上旬の赴任を予定していたが、本土からの医師の支援体制が整っていないことなどを理由に九日、保留を希望したという。

 同市立病院でも常駐の産婦人科医はこの医師だけ。島田市長は「医師が足りないから県内の公立病院間でコンバートする(替える)ことは無策。大学、医学部側との根回しは県にしかできないはずだ」と批判し、県主導の体制整備を求めた。

 支援体制と密接につながる医師の派遣方法をめぐっては、関係機関で協議が難航。産婦人科医の一人体制では負担が大きく、医療事故を回避するためにも、県や隠岐の島町は、医師と関連がある島根大医学部に大学人事として派遣するよう要請。島根大側は内部調整が進まず、結論が出ていないという。

 澄田信義知事は十日の会見で「全力を挙げて島根大に派遣要請をしている。関係者の協議を待ちたい」と述べた。(城戸収、加納亜弥)

****** 朝日新聞、20006年5月11日

県施策を安来市長批判/どうなる出産・隠岐

☆後任有力視 市立病院医師が辞表☆

 隠岐病院の常勤産婦人科医が4月中旬以降不在になり、隠岐諸島で出産できなくなっている問題で、安来市の島田二郎市長が10日、記者会見し、後任医師として有力視されている同市立病院の常勤産婦人科医師から8日に院長あてに辞表が出されたことを明らかにした。島田市長は「医師の気持ちが固まれば、気持ちよく送り出したい」と話した。

 市によると、常勤産婦人科医は6月末に辞職する旨の辞表を院長に出した翌日の9日、この医師が「ほかの産婦人科医の支援態勢がまだ整っていない」として、受理を保留するよう求めてきたという。

 島田市長は医師の辞職は、市としての産科医療の提供にはマイナスとした上で、「市内の医院や近隣自治体の病院で、当面市民は出産できるので、同じ自治体病院として協力はしたい」と話した。

 一方、隠岐病院の後任医師探しをめぐって、自治体間や医師を育成する島根大医学部との調整役を県が十分に担っていないと批判。「出産という基本的なことができなければ、県の少子化対策もままならないのではないか。県も医師確保にもっと汗をかいてほしい」と話した。

(2006年05月11日、朝日新聞

****** 毎日新聞、5月11日

隠岐病院分娩断念:医師、隠岐赴任に難色 支援体制の不備で /島根

 隠岐病院(隠岐の島町)の産婦人科医がいなくなり、隠岐で出産ができなくなった問題で、一度は同病院へ赴任の意思を固めた安来市立病院に勤務する男性産婦人科医(62)が、支援体制の不十分さなどを理由に赴任に難色を示していることが分かった。10日会見した同市の島田二郎市長は「本人が思っている条件と違ったため」と説明。これまでの経緯に対し「県の医療施策は場当たり的で無策だ」と批判した。
 この医師は、島根大医学部の産科婦人科教授との交渉で一度は隠岐病院への赴任を受諾。6月末での辞職願を8日に同市立病院長に提出した。
 しかし翌9日になって、「島根大や県立中央病院の支援体制できちんと話し合いができておらず、もう少し考えたい」と難色を示したため、10日現在で同市立病院は辞職願を受理していない。
 同市立病院には1人しか産婦人科医がおらず、男性医師が隠岐へ赴任すれば産婦人科医が不在となるが、市内に開業医がいることや、松江市や鳥取県米子市など大病院がある都市部に近いことから、対応は可能と判断した。島田市長は「同じ県内の自治体として協力すべき。本人の意向を尊重し、気持ちよく送り出したい」と話したが、県に対しては「自治体や大学との調整で、もっと主導権を持たないといけない」と苦言を呈した。
 一方、この問題で澄田信義知事は10日の会見で「(医師確保は)誰の責任という問題ではない。隠岐病院や隠岐の島町、県、大学が協力し、それぞれのパイプを生かして連携を取りながら取り組むべきだ」と述べた。【酒造唯】

(毎日新聞) - 5月11日13時3分更新

****** 読売新聞、2006年5月11日

隠岐病院に赴任希望 産婦人科医の退職願保留 安来市

 公立隠岐病院(隠岐の島町、笠木重人院長)の常勤産婦人科医不在問題について、安来市の島田二郎市長は10日の記者会見で、7月にも同病院へ赴任する意向を示している安来市立病院の60歳代の男性医師から出された退職願の扱いを保留にしていることを明らかにした。男性医師は赴任にあたって、離島での出産に備えるため、島根大か県立中央病院から、もう一人産婦人科医を派遣してもらえるよう求めているという。

 男性医師は1日に隠岐病院への赴任を内諾していたが、島田市長によると、8日に永松力・市立病院長あてに6月末での退職願を提出したものの、9日になって「もう少し考えさせてほしい」と申し出たという。

 島田市長は「県がもっと主導権を発揮し、自治体間や大学との調整にあたるべき」と、医師確保に向けた県の姿勢を批判。一方で、「男性医師がいなくなれば安来市民にはマイナスだが、開業医や近くの松江市などに大病院がある。同じ公立の隠岐病院に協力したいと思っており、本人の気持ちが固まれば、気持ちよく送り出したい」と述べた。

(2006年5月11日  読売新聞)

医療施設の集約化が不可避

2006年05月11日 | 地域周産期医療

****** Japan Medicine、2006年5月8日

医療施設の集約化が不可避 法的な対応策も今後の重要課題に/全自病・小山田会長 本紙緊急提言

 医師不足問題が深刻化する中で、全国自治体病院協議会の小山田惠会長は4月28日、本紙の取材に対し「医師不足問題を解決していくには、医療機関の集約化が必要だ」と指摘した。さらに、日本小児科学会では、小児救急医療体制改革案として36の都道府県における小児医療施設の集約化・重点化に関するモデル案をまとめた。こうした学会の動きに対し同会長は、「小児科学会、産婦人科学会などの動きは、高く評価している」と話し、今後、学会のモデル案を医療現場で運用していく段階では、全自病としても全面的にバックアップしていきたいとの考えを示した。さらに、同会長は、医師不足解消策については、医療法上の対応が必要だとの認識も示すなど、複合的な対応策を講ずることで地域住民の医療を守っていきたいとしている。

● 全自病が名乗り「学会案の具体的運用へのバックアップ」

小山田会長は、医師不足対策について医師の引き揚げにあった地域で、新たな医師確保は極めて厳しい状況だという現実を自覚することが必要だと指摘した。

 その上で、「現在、地方の医療を守っている医師が勤務する病院、自治体は、その勤務環境を整備し、医師が安心して診療業務が継続できるようにすることが喫緊の課題だ」と説明。「医師不足対策の論議は、いつも総論賛成、各論反対で行き詰まる。これを打開するには、知事、市町村長、病院長などが地域医療を守ることを第一義とし、地域住民に医療施設の集約化が医療安全の確保と地域医療を継続していく上からも、必要な選択であることを理解してもらうことが不可避だ」(小山田会長)と話す。

● 東北6県で産婦人科・小児科の集約地図策定

 これまでも医師不足に対する対応策では、今年2月に厚生労働省科学研究として東北地区6県で、産婦人科、小児科不足対策の一環として医療機関の集約化を図るための分布地図を作製した。その地図に基づき、集約化に参加できる病院の手挙げを待っている段階としている。それでも、医療現場が動くには、まだ時間がかかりそうだという。そこで同会長は、全国から医療機関に集約化の成功事例を収集し、他の地域の病院が参照できる道を開きたいとしている。

● 医師不足対策では、法的な担保も必要

 さらに、今年1月の社会保険審議会医療部会で厚労省は、医師不足対策の一環として、病院、診療所の管理者になるための要件として、へき地、救急、周産期医療などに一定期間勤務するという提案をしたが大きな反発を受け、今回の第5次医療法改正案に盛り込めなかった。同会長は、「前回の提案は、確かにきめの細かさが欠けていた」とし、例えば、対象の医師をどの範囲まで想定すべきなのかなど、再度、検証を加えながら検討を深めていくべきとした。

 特に同会長は、「公的病院の院長を目指すには、ある一定期間、医師不足に悩む地域での医療提供を担当させることができないか」など、具体策について検討していきたい考えだ。その際には、当該地域での勤務が医師の将来にとってメリットなるような制度設計が求められるとしている。

● 日本小児科学会小児・救急医療提供改革案を検討

  一方、日本小児科学会は、日本小児科医会などが4年間を費やして検討してきた小児医療・救急医療提供体制改革案について、今年3月までに36都道府県の学会地方会で、小児医療提供病院を軽症の入院患者を扱う「一般小児科」(過疎小児科、診療所)、1~2次小児救急医療を担う「地域小児科センター病院」、さらに3次小児救急医療を担当する「中核病院」と、小児医療機関の機能分化を促進する「第1次モデル案」の策定作業を終了している。今後、モデル案の精緻(せいち)化などを進めていく方針だ。

 こうした医師不足解消へのシナリオは、各方面で検討されている。小山田会長は、「学会、都道府県などでの検討成果を1つに結び付けていく役割を全自病が担うことで、学会が検討しているモデル案などを実現に向かわせたい」と語っている。


出産施設の集約化(三重県の事例)

2006年05月11日 | 地域周産期医療

****** コメント

>「最初は伊勢市の個人病院に通っていたが、片道約一時間もかかるので志摩病院に変えた。陣痛が始まってから伊勢まで行くなんて、絶対に無理」と話す。

現状では地域全体の産婦人科医数を増やすことは非常に難しい。分娩施設を集約化するのか?分散化するのか?は究極の選択である。

分娩施設を集約化すれば、分娩のリスクを減らすことができるし、産婦人科医の労働環境の改善が期待できる。しかし、病院へのアクセスが不便となる妊婦さんの割合が増える。

分娩施設を分散化すれば、病院へのアクセスが便利となる妊婦さんの割合は増えるが、分娩のリスクが増し、産婦人科医の労働環境は悪化し、産婦人科医減少に歯止めをかけられない。

今までは、分娩施設が分散している地域が多かった。しかし、国全体の産婦人科医数が激減し産科医療が絶滅の危機にある現状では、今後は分娩施設の集約化を推進してゆかざるを得ないと多くの人が考え始めている。

分娩施設を集約化すれば、自宅と病院との距離が長くなる妊婦さんの割合は当然増える。自宅と病院との距離、自宅から病院までの所要時間は最初からわかっていることだし、時期がくれば陣痛が発来することも最初からわかっていることなので、自宅と分娩する施設とが遠距離の場合は、各自の責任において、妊娠満期には分娩施設近くのホテルに宿泊して待機するなどの対策が必要となる

****** 毎日新聞、2006年5月9日

県立志摩病院:産婦人科、医師減少で廃止の危機 志摩市が存続要望 /三重

 産婦人科医の減少に伴い、県立志摩病院(志摩市阿児町鵜方)の産婦人科が廃止される可能性が高まり、同市や市議会関係者が関係機関に存続を求める要望書を提出するなど、危機感を強めている。
 志摩病院や県健康福祉部などによると、伊勢志摩地域にはこれまで、同病院に2人、山田赤十字病院(伊勢市)に6人の計8人の産婦人科医が、三重大学医学部から派遣されてきた。
 しかし、04年度に導入された卒後臨床研修制度により医学部卒業生が都市部の病院に流れたり、勤務が過酷という理由で敬遠されるなど、県内の産婦人科医は激減。こうした中、三重大医学部など関係機関は今年2月、各地域で分べん施設を集約化する方針を決定。伊勢志摩地区については4月以降、2人減の6人でカバーする方針を固め、山田赤十字、志摩の両病院に伝えた。
 これを受け、両病院は6人の医師の配分について2月下旬から4月下旬にかけて数回にわたる協議を重ねた。しかし、「ハイリスクの出産などに対応するには6人の医師が必要」とする山田赤十字病院と、「志摩地域にも分べんができる病院が必要」とする志摩病院側とで調整がつかず、判断は三重大医学部に委ねることになった。今月中にも判断が示される見込みだ。
 これに対し、志摩市の竹内千尋市長や同市議らは「安心して出産できる環境の維持」を求めて県などに要望書を提出。田川新生・志摩病院長も「志摩地区は他地域と異なり、産婦人科の開業医もいない。うちがなくなれば、出産の際、1時間以上もかけて伊勢市まで行かなくてはならない。地域事情に配慮してほしい」と訴えている。【田中功一】
〔三重版〕

5月9日朝刊

****** 毎日新聞、2006年5月10日

三重大医学部:産科医「山田赤十字」に集約 県立志摩病院に打診 /三重

 ◇三重大医学部派遣医師6人

 産婦人科医の減少に伴い、県立志摩病院(志摩市阿児町鵜方)の産婦人科が廃止される可能性が高まっている問題で、三重大医学部が8日、志摩病院など伊勢志摩地区の2病院に派遣している6人の産婦人科医を7月以降、山田赤十字病院(伊勢市)に集約する案を志摩病院に伝えていたことが分かった。野呂昭彦知事が9日の定例会見で明らかにした。

 伊勢志摩地区には、志摩病院に2人、山田赤十字病院に6人の産婦人科医が派遣されていた。しかし、産婦人科医の減少に伴い、先月から山田赤十字病院の医師が2人減の4人となっている。三重大医学部など関係機関は各地域で、出産施設を集約化する方針を決めており、危機感を持った志摩市などが存続を求める要望書を提出するなどしていた。

 三重大医学部から志摩病院に伝えられた案では、6月末までは現状のままでいくが、7~10月は山田赤十字病院に6人の医師を集約し、うち2人を志摩病院に常勤で派遣する形に変更。さらに11月以降は、週2~3回の派遣に減らし、婦人科の外来診療を行うという。野呂知事は「病院間で緊密な連携をとってもらい、住民への影響ができるだけ少なくなるよう努力してほしい。県としても今後、調整していく」と述べた。

 県病院事業庁は「あくまでも三重大医学部からの打診であり、決定ではない。地元の意見も聞きながら議論を重ねたい」と話している。【田中功一】

〔三重版〕

毎日新聞 2006年5月10日

****** 中日新聞、2006年5月9日

産科医不足で休診の危機に 県立志摩病院

 地方都市の中核病院の勤務医不足が全国的に深刻化する中、医師を基幹病院に集める「集約化」によって、県立志摩病院(志摩市阿児町)の産婦人科が休診の危機にひんしている。志摩市内にはほかに産婦人科のある病院や産院がなく、同病院や市は「市内で出産ができなくなるおそれがある」と危機感を募らせている。 (小柳津心介)

 「産婦人科をなくすことは、「志摩の人は子供を生まなくてもいい」と言うようなもの。地域差別以外の何ものでもない」

 産婦人科の存続を一貫して主張する志摩病院の田川新生(しんせい)院長は、憤りを隠さない。

 県や三重大病院などの代表者で構成する県産婦人科医療再生検討委員会は今年二月、勤務医不足対策として、伊勢志摩地域を六人の医師でカバーすることを決定。三重大病院が志摩病院に派遣している二人をゼロにし、山田赤十字病院(伊勢市御薗町)を現在の四人から六人とする集約化を目指しているが、志摩病院などの反対があり結論には至っていない。

 志摩市の年間出生数は約四百人で、そのうち約三割が志摩病院での出産。産婦人科が休診になった場合、伊勢市など市外で出産するしかなく、志摩半島の先端の志摩町御座からだと、志摩病院なら車で三十-四十分だが、伊勢市内だと約一時間半もかかることになる。

 田川院長は「医師不足という現実はいかんともしがたく、集約化も仕方ないが、地形や交通面の問題を無視して『伊勢・志摩』を一つとする区域分けは間違っている。命が平等に扱われていない」と指摘する。

 こうした状況に、志摩市は四月七日付で、産婦人科医の確保を求める要望書を三重大病院などに提出。「安全、安心なお産ができる環境をぜひ残してほしい」と訴えた。

 これに対し、三重大病院は同二十日付で回答。二〇〇四年に七十一人いた県内の産婦人科の勤務医が、今年四月には五十四人まで減少したことを挙げ、「大学や基幹病院の医師数を削減して地域に再配分するという対応策は限界に達している」「病院間の集約化を推進する以外に対応できない」と厳しい見方を示した。

 四月に志摩病院で一人目の女児を出産した志摩市内の女性(24)は「最初は伊勢市の個人病院に通っていたが、片道約一時間もかかるので志摩病院に変えた。陣痛が始まってから伊勢まで行くなんて、絶対に無理」と話す。「二人目はまだ考えていないが、産むなら知っている先生や看護師さんがいる病院の方がいい。志摩病院なら小児科もあって産後も安心なのに、なくなってしまったら…」

 安心して子供を産める場所は守られるのか。田川院長は「この現状を地域の人たちにも知ってもらい、声を上げたり考えたりしてもらうことが必要だ」と話している。