ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

河北新報:過酷な現場産科、やまぬ悲鳴

2006年05月07日 | 地域周産期医療

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最近、毎日のように、新聞各紙に産婦人科医不足に関する記事が掲載されているが、どれもほぼ同じような記事内容であった。つまり、全国的に産婦人科医数が急激に減少していること、それに伴い、分娩取り扱い施設も減少し続けていること。多くの妊婦さんたちが分娩する場所を失い非常に困っていること。今後の対策としては、産科医の集約化と報酬の適正化、地域内の病院・診療所間の連携強化、無過失補償制度の導入、助産師の有効活用、産婦人科医の新人獲得に向けた努力、などが考えられていること。

****** 河北新報、2006年5月7日

過酷な現場産科、やまぬ悲鳴 本社・医療アンケート

 東北の病院で産婦人科の休止や縮小が相次いでいる。他の診療科目に比べ、診療業務が過酷とされる産科医が慢性的に不足しているためだ。河北新報社が6県の主な病院を対象に実施した産科医療アンケートでも行政、病院、大学に対し、現状の改善を求める多様な訴えが寄せられた。

 仙台市若林区のNTT東日本東北病院。平日の午前8時、産婦人科の待合室は診療を待つ妊婦や家族で込み合っていた。月平均の患者数は入院800人、外来1200人、分娩(ぶんべん)400件。3人の常勤医で、すべてをこなす。

 「宮城県北や県南から通う妊婦も珍しくない。各地で産科医が減っている影響を感じます」。産婦人科部長の小沢信義さん(51)は打ち明ける。
 4月下旬には、「重症の恐れがある」と公立気仙沼総合病院(気仙沼市)から紹介された妊婦を手術した。気仙沼病院の常勤医は1人だ。「僕らは3人だから恵まれている方だけど…。正直言って、きつい」
 3日に1度は当直が回ってくる。深夜の呼び出しや、仮眠もそこそこに外来の診療や手術に入ることも珍しくない。肉体的な疲労に加え、ストレスも大きい。

 小沢さんは「お産は急変が付き物。リスクの高い35歳以上の初産が増え、先天性脳性まひなど避けられない疾患もあるのに、『無事に産まれて当然』と考える人が多い。ギャップを感じる」とため息をつく。

 アンケートに応じた病院91カ所のうち、4割は医師1―2人体制。2割近くが「休診中」あるいは「今後休診の見通し」と回答、全体の9割は「産科医の確保は難しい」と答えた。

 医師不足の解消策としては、国に「産科医療の診療報酬アップ」を求める声が強く、「報酬を上げ、人を増やさないと安全な医療を提供できない」(宮城・民間病院)との意見が代表的。「皮膚科などリスクの低い診療科と横並びでは納得できない」(青森・公立病院)という指摘もあった。

 地方自治体に対しては、産婦人科を持つ医療機関の集約など訴え、病院には当直免除といった支援策を要望。大学には、専門の養成コース創設をはじめ、診療現場の充実に貢献する取り組みを求めている。

◇産科医療充実を求める現場の声

【国へ】
 ・産科医療の診療報酬アップ(宮城・公立病院ほか)
 ・助産師の活用(岩手・公立病院ほか)
 ・医師の責任が明確ではない医療事故における患者への補償制度導入(宮城・民間病院ほか)
 ・医療事故専門の裁判所に当たる「審判所」創設(青森・公立病院ほか)
【自治体へ】
 ・産婦人科医療施設の集約(宮城・公立病院ほか)
 ・病院統廃合に伴う通院用交通網の整備(青森・公立病院、岩手・公立病院)
【病院へ】
 ・産婦人科医の全科当直免除(青森・公立病院)
 ・仕事に応じた給与体系の導入(秋田・民間病院)
 ・中核病院と開業医の連携、すみ分け(福島・公立病院)
 ・出産、子育てする女性医師への支援(山形・公立病院、大学病院)
【大学へ】
 ・産婦人科医養成コースの創設(青森・公立病院)
 ・産婦人科の実習を増やし、やりがいを伝える(秋田・公立病院)
 ・地域からの産科医引き揚げ中止(宮城・民間病院)
【その他】
 ・危険が大きい出産に対し、患者側と認識の差が大きい(秋田・公立病院)
 ・病院の統廃合で医師は休めるようになるが、通院など患者の負担は増す。搬送が間に合わず、死亡する例が出る恐れも(山形・公立病院)

(河北新報) - 5月7日7時4分更新

****** 毎日新聞:投稿、2006年5月7日

投稿:女の気持ち 産科医 

横浜市神奈川区・田○○子(主婦・33歳)

 最近、少子化とともに産科医の不足がささやかれているが、それを実感した一人である。私は現在2人目妊娠中。上の子もいるし、里帰り出産をしようと思ったのだが、駄目だった。

 実家のある市には出産を取り扱う病院が二つしかなく、そのうちの一つが9月で産婦人科を閉鎖するという。そのため、地元の人優先で事実上里帰りはお断りらしい。この市も含め、特に地方の産科医不足は深刻だ。子供を産みたくても、病院がなければ産めないではないか。国は少子化を考えるなら、このことも頭に入れておいてほしい。

 上の子を出産する時、看護学校の学生さんが実習に来ていた。看護師さんに「あなたの出産を見学させたいがいいだろうか?」と聞かれた。私が「いいですよ」と気軽に言うと、「男の学生も一人いるけど、大丈夫?」と再度聞かれた。一瞬迷ったが、その人たちのためになればと了承した。そして娘はみんなに見守られ、無事に誕生した。

 後日、その男の学生さんからお礼を言われた。「出産というものの大変さを目の当たりにして、改めて自分の母親に感謝と尊敬の気持ちを持ちました。女の人はすごいです。本当にありがとうございました」

 彼は看護師志望だったが、彼のように思い、産科医を志す人が少しでも出てくることを願うばかりである。

毎日新聞:投稿 2006年5月7日 東京朝刊