ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

読売新聞:医療事故 摘発どこまで

2006年05月27日 | 報道記事

****** コメント

今回の事例(福島県立大野病院事件)に関しては、日本産科婦人科学会、日本産婦人医会をはじめとして、全国医学部長・病院長会議、日本医師会、日本医学会など、ありとあらゆる日本の医師の団体がこぞって、「医療ミスはなかった、正当な医療行為であった、逮捕は不当であった」と主張しています。

最近は、マスコミの論調も変わってきて、この医療事故に関する限り、「医療ミスは存在しなかった、逮捕は不当であった」というニュアンスの報道がほとんどとなってきつつあります。

このような状況でありながらも、検察側は裁判を長引かせて、あくまでも加藤医師を有罪にしようと、最後の最後まで頑張り抜くというのでしょうか?

癒着胎盤は、非常にまれながら、一定の確率で必ず誰かに発生します。私自身、産科医療に従事する限り、いつ癒着胎盤に遭遇するか全く予想もできません。癒着胎盤の治療の難易度は非常に高く、必ずしも全例で救命できるとは限りません。もしも、この裁判で加藤医師が有罪となるようであれば、産科医療に従事すること自体が刑罰に値すると断罪されたも同然で、そんなことになれば、多くの産科医が産科医療から一斉に離れていくことになるでしょう。

検察が今やろうとしていることは、産科医療だけにとどまらず、日本の医療そのものを根本から破壊しようという非常に無謀な行為だと思います。

真実は誰の目にも明らかになってきたと思うのですが、実際の裁判のゆくえは、裁判官の考え方次第で決まりますから、最終的な判決がどうなるのかは全く予断を許しません。国民みんなが、この裁判の動向を注視してゆく必要があると思います。

****** 読売新聞、2006年5月24日

検察官 第5部 あすへの模索

医療事故 摘発どこまで

医療界は「現場萎縮」反発

 1人の医師の逮捕が大きな波紋を呼んだ。

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が失血死した医療事故。執刀した産婦人科医(38)が今年2月、福島県警に逮捕され、3月10日に業務上過失致死などの罪で起訴された。

 「大量出血は予見できたはずで、無理に胎盤をはがすべきでなかった。医師の判断ミスだ」。福島地検次席検事の片岡康夫(48)は、起訴の理由をそう説明した。

 「女性は医師を信頼していたのに、麻酔で何も分からないまま亡くなった。この事実は軽視できない」と、被害者感情にも触れた。

 医療事故で医師が逮捕されるのは異例だった。また、同病院で産婦人科医はこの医師1人で、年間約230件の出産を手がけていた。

 「事件は産婦人科医不足という医療体制の問題に根ざしている。医師個人の責任を追及するのは、そぐわない」。日本産科婦人科学会などは逮捕・起訴を強く批判した。

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 年間1万件以上とも推計される医療事故死で、近年、医師個人の刑事責任を問う事件が増えている。警察庁のまとめでは、警察から検察への送致件数は1997年の3件から昨年は91件に増加。医療事件の判例に詳しい元福岡高検検事長で弁護士の飯田英男(67)によると、医療事件の起訴件数(略式含む)は、98年までの約50年間は137件だったが、99年から6年間79件に上る。

 増える一方の事件を処理するため、東京地検は02年4月、刑事部に医療専従班を設けた。しかし、昨年から今年にかけ、東京女子医大事件と杏林大病院割りばし死事件で、相次いで医師に無罪が言い渡された。

 東京地検で薬剤エイズ事件の公判を担当した検事の青沼隆之(51)は言う。「医療事故は、非常に立証が難しい。だが、事故が起きた時の原因や責任を追及する制度が整っていない現状で、悪質な過誤やカルテ改ざんを前に、我々が手をこまぬいているわけにはいかない」

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 「医療現場は常に死や傷害と隣り合わせ。専門知識に乏しい警察や検察に、罪となる医療を過不足なく判断する能力があるとは思えない」。昨年4月、虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹医師(56)は、最高検の「医療事故等研究会」に講師として招かれ、医療事故捜査を批判した。最高検が昨年、研究会を設置した背景には、「捜査は医療現場を萎縮させるだけで、再発防止に役立たない」という医療界からの指摘があった。

 欧米では、医療事故に基本的に刑罰を適用しない代わりに、第三者機関などが独自に原因を調査し、医師に免許はく奪を含む処分を厳しく行っている。対照的に、日本では、医師の行政処分は、刑事事件で罰金以上の刑が確立した場合などに限られてきた。

 こうした刑事司法頼りから脱却しようと、厚生労働省は02年12月、刑事裁判の確定を待たずに、処分する方針に転換。昨年9月からは、治療中に起きた不審死について、第三者の医師や弁護士が死因究明と再発防止策を検討するモデル事業を実施している。

 東京女子医大事件で二女(当時12歳)を失った平柳利明さん(55)は、「捜査で医療界の隠ぺい体質には変化が生じたが、原因究明には限界も感じた」と話す。飯田は「捜査機関とは別に専門医が調査し、その結果に基づき行政処分するシステムができれば、検察が扱うべき事案は、患者取り違えのような悪質なものに限られる。今はその過渡期だ」と分析する。

 「重大事件が相次ぎ、医療不信が高まる中、検察は遺族感情に突き動かされて刑事罰を積極的に適用してきた。しかし、すべてを刑事事件にするのがいいのかどうか」。ある検察幹部は、揺れる胸の内をそう語る。刑事司法がどこまで医療事故に踏み込むべきか。最高検の研究会は明確な結論を出せないでいる。

(検察官、弁護士の敬称略)

以上、読売新聞、2006年5月24日


日本医師会ホームページ:小児救急医療の現状とその対応策

2006年05月27日 | 地域周産期医療

日医白クマ通信 No.409、2006年5月25日(木)

石井常任理事らが川崎大臣と懇談
―小児救急医療の現状とその対応策について―

 小児救急医療に関する厚生労働大臣との懇談会が、5月24日、厚労大臣室で開催された。

 当日は、日医から石井正三常任理事、師研也日本小児科医会長、別所文雄日本小児科学会長、小児科の女性勤務医らが出席し、小児救急医療の現状とその対応策について、意見交換が行われた。

 石井常任理事は、「小児救急医療を含む周産期医療に係る医師の過重労働の蔓延と常態化が大きな問題になっており、新しい世代の医師が同分野への参入を敬遠するという二次的な影響も顕著となっている」と、医療現場の現況を説明。「この問題は、少子化社会対策の根幹であり、周産期医療の整備・確保を放置したままに、いかなる施策を立案しても、実効性は確保されない」と強調した。

 産科、小児科医師を確保するために打ち出されている、集約化・重点化の問題に関しては、「各地域にガイドラインと選択肢を与えたと理解している」と指摘。「地域にはそれぞれの事情があり、地域医師会を中心として実情を検討し、小児科医の確保策として集約化が有効であれば選択すべきである」との見解を示した。

 今回の医療制度改革のなかで、「救急医療等確保事業」ごとの医療連携体制や医師等の医療従事者を確保するための協議会が法制化される予定となっていることについては、「地域の医療提供体制、医療連携体制は、その地域医療の担い手を代表する医師会が中心となって構築されるべきである」と改めて主張。「同協議会の場でも、医療確保の取りまとめは地域の医師会がしっかりと関与しなければならない」とした。

 最後に、総合的な少子化対策、救急医療のあるべきヴィジョン、小児救急医療の見地から、医師会・行政、立法府をも交えた早急な懇談と方向付けを決定することが喫緊の課題であると結んだ。

 出席者からは、「患者さんのQOLの向上だけでなく、医師のQOLの向上も同時に考えなくては、周産期医療における過重労働、女性医師の就労環境等の問題は解決しない」などの意見が出された。

 川崎二郎厚労大臣からは、主に医療機能の集約化についての質問があり、石井常任理事は、「地域の実情に応じた施策が重要であり、集約化したあとのヴィジョンを示していくことが必要」と指摘した。