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例えば、放置すれば100%患者は死亡するが、外科的治療により救命の可能性があるような場合に、担当医師が適切な外科的治療をしないで患者を放置し死亡に至らしめれば刑事責任を問われるし、外科的治療を実施したとしても結果が不良であれば刑事責任を問われるというような社会状況になってしまえば、医師がそもそもそのような患者を担当したこと自体で刑事責任を問われていることになってしまう。極端なことを言えば、そのような疾患を扱う診療科で診療に携わること自体で刑事責任が発生することになってしまう。
要するに、正当な医療行為でも、その結果が不良であれば刑事責任が問われるような社会では、救命率の低い疾患に罹患した場合は、どこにもその患者を担当する医師がみつからなくなってしまい、まともな治療は一切受けられなくなってしまう可能性がある。
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http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_17MAY2006.html
県立大野病院事件に対する考え
福島県立大野病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が、平成18年3月10日、業務上過失致死、および医師法21条違反の罪で起訴された件について、日本産科婦人科学会、および日本産婦人科医会は、すでに「お知らせ」、「声明」を公表し、さらに「声明」を補足するために厚生労働省にて記者会見の場をもち、両会の考え方を示してまいりました。
このたび両会は、本件の重要性に鑑み、ここにあらためて「県立大野病院事件に対する考え」を発表いたします。
はじめに、本件の手術で亡くなられた方、およびご遺族の方々に対して謹んで哀悼の意を表します。
このたび、産婦人科の医療行為について、個人が刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念であります。
本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高く、対応がきわめて困難な事例であります。
起訴状によれば、本件における手術中、児娩出後に用手的に胎盤の剥離を試みて胎盤が子宮に癒着していることを術者である被告人が認識した時に、「(被告人には)直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行し、胎盤を子宮から剥離することに伴う大量出血による同女の生命の危険を未然に回避すべき業務上の注意義務があるのに、(被告人は)これを怠り、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行せず、同日午後2時50分ころまでの間、クーパーを用いて漫然と胎盤の癒着部分を剥離した過失により、」とあり、被告人が直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行しなかったことと、胎盤の癒着部分の剥離に用いた手段に過失がある、とされています。
癒着胎盤の予見のきわめて困難である本件において、癒着胎盤であることの診断は、胎盤を剥離せしめる操作をある程度進めた時点で初めて可能となるものであります。したがって、結果的には癒着胎盤であった本例において、胎盤を剥離せしめる操作を中止して子宮摘出術を行うべきか、胎盤の剥離除去を完遂せしめた後に子宮摘出術の要否を判断するのが適切かについては、“個々の症例の状況”に応じた現場での判断をする外なく、それはひとえに当該医師の裁量に属する事項であります。
また、本件のような帝王切開例における胎盤の癒着部を剥離せしめる手段としては、用手的に行うことだけが適切ということはなく、クーパーをはじめ器械を用いることにも相当の必然性があり、この手技の選択も当該医師の状況に応じた裁量に委ねられなければ、治療手段としての手術は成立し得ません。
本件の転帰に関してはたいへん心を痛め、真摯に受け止めておりますが、外科的治療が施行された後に、結果の重大性のみに基づいて刑事責任が問われることになるのであれば、今後、外科系医療の場において必要な外科的治療を回避する動きを招来しかねないことを強く危惧するものであります。
平成18年5月17日
社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 武谷 雄二
社団法人 日本産婦人科医会
会 長 坂元 正一
****** 共同通信、2006年5月17日
「手術判断は医師の裁量」 産科医起訴を2学会批判
福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、産婦人科の執刀医が逮捕、起訴された医療事故で、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)と日本産婦人科医会(坂元正一会長)は17日、「(手術は)個々の症例の状況に応じ現場で判断するほかはなく、医師の裁量」などとして、あらためて逮捕と起訴を批判する見解を連名で発表した。
起訴状では、執刀医が胎盤の癒着を認識した際、すぐに子宮摘出などに移るべきだったのに怠ったなどと医師の過失を指摘している。
これに対し両学会は、手術の手法の選択が状況に応じた医師の裁量に委ねられなければ、治療手段としての手術は成立し得ないと指摘。結果の重大性のみに基づいて刑事責任が問われると、必要な外科的治療を回避する動きを医療現場に招きかねないとしている。
(共同通信) - 5月17日23時46分更新
****** 毎日新聞、2006年5月17日
福島県立大野病院で帝王切開手術中に患者が死亡し、産婦人科医が業務上過失致死容疑などで逮捕、起訴された事件で、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)と日本産婦人科医会(坂元正一会長)は17日、医師に過失があったとする起訴状を批判する見解を連名で発表した。「手術は医師の裁量に委ねられるべきで、結果の重大性のみで刑事責任が問われると、必要な外科的治療を回避する動きを招来しかねない」と訴えている。
起訴状によると、産婦人科医は、癒着した胎盤を無理にはがして大量出血を招いた過失により、患者を死亡させた。
両会は、胎盤の癒着状態を事前に診断するのは困難▽手術方法は症例に応じて現場で判断するしかなく、その選択は医師の裁量だ--などと反論した。【永山悦子】
毎日新聞 2006年5月17日 19時37分