御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

さすがは小宮先生

2009-12-10 07:02:33 | 書評
昨日小宮・岩田の「企業金融の理論」を読み直す機会があった。僕は昭和53年発行の第3版第2刷を買っている。その頃は学生だが関心は厚生経済学にあったので、おそらく会社に入って株式部に配属されてからじゃなかろうか。
それで読んでみると、もちろん復習であるせいもあるが、なんとも簡潔にしてテンポがよくわかりやすく、しかしこびることのない記述に感心した。最近ご議論を目にすることはないが、さすがは小宮先生である。

ついでに言えば、物言いもとても明確で剛直だ。序章では資本コストを巡る日本の現状の問題を指摘するが、その一方で安易に「欧米では」とカサにかかるわけではなく、「これまでに企業金融の理論の本格的な発展が見られた唯一の国であるアメリカ」との指摘で米国のみが日本以外で本格的理論の発展を見た国であることを言い、しかしながらその米国でも伝統理論派とモジリアーニミラー派の間で15年にもわたって感情的なものを含んだ論争が繰り広げられて話が相当にこんがらがっている、と指摘している。また論議好きの小宮先生らしく「企業金融に関する通俗的観念」なる一章を設け、株主、経営者、証券関係者、行政当局などにはびこる誤った俗説をいちいち取り上げて論破している。これもとても歯切れがよい。ひとつ引用すると、「株主の被害妄想」と題した節で、「ある企業の収益率が低すぎると思うのであれば、他の企業の株式に乗り換えることもできるし、さらに株式を売却して社債なり定期預金に乗り換えればよいのである。株式投資は大いに得をするときもあるが損をするときもある。損をしたときのことばかりが脳裏にしみこんで上記のような「被害妄想」に陥るような人は、株式投資はしないほうがよいのである。」とばっさり。

なんとも剛直で筋の通った、誰にもこびずしかしおごらぬ態度はすばらしいねえ。これで思うこと二つ。東大はマル経ばかりだと思って避けたんだが、もし行って小宮ゼミとか根岸ゼミに入っていたらどうだったかなあ? 著名だがやる気のない先生についた僕の大学時代よりはおそらくよほど充実していただろうな。それから、これは思い出だけど、この本を読んでMM理論を知った後に増資還元ルール(と言うか要望)のお守りをした。増資金額相当額を増配で還元することを求めるという、資本コストもへったくれもない相当幼稚な話。職場の上司たちはそのことを理解したうえでルールの存在を政治的に是認しているのかと思ったがそうではなかったのでいささか唖然とした。それでも「仕事」って一応できちゃってたんだよねえ。。。当時は。いや、今でもか(笑)。