まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

鳥を撮る男

2018-10-14 13:29:36 | 日記


25万点、全部見直しました

横浜のとある写真バーに
並ぶ25点の写真たち
その全てに映っているのは
美しい色合いの鳥
まん丸な瞳、長い嘴、赤い脚の
カワセミ

ある時は花の上で
ある時は岩場で
ある時は春早い桜の枝の上で
虎視眈々と魚を狙っていたり
のんびり伸びをしてたり
仲間と何やらやりとりしてたり

カメラマンは我らが稲葉さん
2年半毎日、撮りためた写真が
25万点あるという
1年で10万、1日平均約280枚
通勤前に近所で1時間、という日々の積み重ね

最初に稲葉さんとお知り合いになった時は
彼が鳥を撮る人だとは知らず
ママチャリグランプリでチームに貢献するため
ヒンズースクワットやりまくったら
持ってたズボンが全部入らなくなり
そもそもママチャリには不向きな筋力だったことが判明、
などの逸話から
なんだか物凄い努力家だけど
どうして最後笑い話になっちゃうんだろう、というところが
なんともチャーミングな人だと思った

その後に知った一面は、ご子息の音楽活動をサポートしてることで
小学生のその男の子が所属する合唱団で歌うのを聞いて
とんでもない才能に驚愕したんだった

そしていよいよ一緒に撮影散歩をするようになり
空港の回では、飛行機撃ち落とすんですか、と思うような
巨大なレンズを2本携える勇姿を拝見
でもその装備はそんな物騒な目的ではなく
遠くから愛おしい小さな生き物をそっと写すための
ものだったんだ、と知る

今回初めて知った言葉「ハスカワ」
蓮の花や実に停まったカワセミのモチーフ
写真展にもいくつかそれがあったのだけど
別にカワセミは蓮の花に停まるのが
好きってことじゃないらしい

獲物のいる流れと蓮のある位置が
絶妙にマッチしたところでないと
起こらない現象
そんな希少な瞬間をどうやって切り取るのか
といえば

待ちます
長いと1時間くらい

ロケハンして、ここにカワセミが
停まってくれたらいいなあ、と思う場所に
ひたすら張り込むのだそうで
どストライクな花に停まってくれた時の
感動はとてつもないらしい

置きピンなんですか、と聞くと
そういうこともたまにあはるけど
大概はちゃんと狙って撮ってるとのこと
この写真の時はマニュアル、と聞いて驚愕
コンマ数秒であらゆる判断と操作をするのだろう

数種類あるミニパネルを散々見比べて
一点連れてきた
眼光鋭く獲物に狙いをつけて
飛び出す瞬間を探るカワセミ
全身にみなぎる緊張感

稲葉さん、素敵な写真をありがとうございました

セルパンのこと

2018-10-09 22:01:24 | 日記


「つわもの達の夜」

我らが珈琲文明さんは
普段はチェロの静かに流れる
喫茶店ですが
マスターの毎月の弾き語りの他に
演者さんを公募しています。

応募するのに必要なのは
名前と作品がわかるもの。
現在の肩書き、過去の栄光などは
一切不要。

それなりに応募してくる方は
いらっしゃるようですが
その中でマスターが「これだ」と
思うものはほんの少しで
結果、つわもの達の夜の開催は
2年に1回という体たらくです(体たらくってなんだ)。

ある日、一つの音源が送られてきました。
添えてあるのは本当に名前だけ。
マスターは早速それを聴き、いたく感動したので
すぐに送り主に連絡します。
「とても素晴らしいです。ぜひ出演願いたい。
ところで、これはなんという楽器ですか。」

聴こえてきたのは管楽器の、それでいて
やけに人間の声に酷似した豊かな響き。
それが「セルパン」でした。

フランス語で「蛇」を意味するこの名称。
15世紀、グレゴリオ聖歌の低音部分を補佐するために
作られた楽器だそうです。
宗教曲では高い音は天使の音、
低い音は悪の音として表現されますが
悪い奴代表で「蛇」が選ばれ、その形を模した楽器に
したという一説があるそうです。
ただ、あまりに昔の楽器であり
今やマイナーとなってしまったので
謎が謎のまま解かれることなく
現在に至ります。

マウスピースと本体は木製ですが
つなぎが金属なので
部類としては金管楽器になるそうです。
大きくて間隔の開いている左右3つずつの穴を
リコーダーのように開放したり塞いだりして
音階を作ります。

演奏者の東金ミツキさんは学生時代にこの楽器に出会い
一目惚れしてしまったのだとか。
チューバ専攻だったのですが副課として
セルパンを勉強することを熱烈に希望し
しぶしぶ学校の方が折れたとのこと。
今は「セルパン宣教師」として布教活動をしています。

今夜演奏してくれたのは、本来の目的だった
グレゴリオ聖歌のオラトリオのほか
耳に馴染みのあるジャズ、サービスで蘇州夜曲など。
ただ、この子にはとても好き嫌いがあるようで
一番楽しそうに響いていたのは
ノルウェーの作曲家の作ったチューバのための楽曲でした。
日本語にすると「なんとかなるさ」というタイトルも素敵。
全然乗らない楽曲だとフラットしちゃう分かりやすさが
人間っぽくてなんかいいのです。

古巣の合唱団で宗教曲を歌う時に一緒に聴けたら
とても素敵だろうなあ。

東金さんは東京で活動してるようですが
来年は横浜山手の洋館でもリサイタルするんですって。
「チケット、買ってください。」と
ストレートな熱意が好感度高し。

終盤、皆さんの質問ぜめに遭ってるのを横目に
お店を後にしました。
もう少しお客さん少なかったら、触らせて欲しかったけど
それはまた今度ね。

東金さん、
マスター、
楽しい夜をありがとうございました。

10月のフランス菓子研究所 タルトオニオン

2018-10-07 19:42:12 | 日記


10 月だというのに台風の影響で
温度も湿度も高い土曜日
週後半から超多忙となった仕事の余波で
ぐにゃぐにゃしながら家を出る

近所の大きな幼稚園は運動会、体操服の背中にお名前を黒々とマジックで大書した女の子が、お父さんと手を繋いで歩いてる

途中たわわに実ったみかんの木を指して「あたし、ちっちゃいころ、みかんだいすきだったのよねー」と言うのを聞いて、今もじゅうぶんちっちゃいように見えるけど、もっとちっちゃい頃は確実にあって、そこから考えるとずいぶん大きくなったんだよねと思い、勝手に感慨深いような気になる通りすがりの他人

スタジオ最寄りの駅で降り、さして美味しくもないパン屋でコロッケバーガーを買って、スタジオのサロンでだるだる食べるわたしをみて、ひろこさんが笑う
こないだの磯子祭りどうだったのー、なんて話をしてるうちになんだか元気になってくる

エプロンつけて手を洗い、レッスンが始まると先生が「ブログ見てる?」と唐突に聞くので、なんか注意すべき申し送りなどあったかしらと訝ってると、「写真変わったでしょー」と言うので、
単焦点ですよねー、と相づちうったら「知ってたのか。ちぇ。」とつまんなそうなのであわてて謝る
気をとり直して、単焦点いいですよね、わたしもいつもそうです、先生のは何㎜ですか?ときいたら「知らなーい」とのことで方向転換は失敗に終わる

たまねぎのキッシュ、パータパテはキッシュおなじみのちょっと硬いやつ
今日の気温じゃどうにもならないため冷房つけるスタジオ
さっさとのしてしっかり敷き込み、決壊がないかチェック
これがキッシュでは一番大事
せっかくのアパレイユが流れてしまったら焦げるだけでもったいない

それからたまねぎをスライスしてバターで炒める
30分もすれば飴色になりかさも減り、なはずが、白くてぴっしょりしたままなので、火力強めて追加で炒めるが結局それ以上はどうにもならなかった
冷房のせいかたまねぎの個体差か気合いが足りなかったのか

飴色たまねぎは、できあがってるものが商品としてあるんだそうで、家で使うんなら迷わず購入するわたしと、
時間あるときに作って冷凍しておこうというゆみこさん
栗を煮るのに何時間もかかるのはやるけど、たまねぎなんかに時間かけたくないなーと呟くと、たまねぎの過小評価に抗議する先生
「たまねぎは美味しいし、偉いんだよ。」は、はい。



アパレイユに使うやぎの青カビチーズ
なかなかの破壊力だがわたしはとても好きな味
今日のみなさんは、ちょっと不得意というひとと半々くらい
卵と生クリーム、サワークリームと混ぜてたっぷりのスパイスがもうほんとに美味しそう

空焼きしたキッシュにアパレイユを流すのは極力オーブンの近くで
運ぶ間に揺れたりしたら大惨事だし



焼いている間に試食タイム
フランスのお土産のお茶の淹れ方は
読めないんで絵とフィーリングで
とてもよい香りの緑茶、おいしかった

キッシュはロックフォールの強烈さはそれほど際立つものではなく、むしろじっくり炒めたたまねぎの美味しさと香ばしさ、スパイスの香り、クリーミーなアパレイユがとてもバランスよい味わい
ワインが飲めたらいいのにな

試食しながら、体のメンテは大事だとか、あんこコンテストのこととか、真剣に楽しく話して、帰り道はあんだけぐにゃぐにゃだった体調が良くなってる不思議

ミサリングファクトリーがわたしにとってどういう場所なのかを改めて知り、ありがたいなとしみじみ感じる強い陽射しの残る秋の日