生まれは葛飾である
母の実家の床屋は
江戸川区に属してるが
目の前の通りが区境のため
お向かいの産院の住所は葛飾区だった
半世紀経ち、床屋は廃業し
ビルになっていて
産院はなぜか教会になっている
とりたててなんの記憶も
思い出もあるはずないけど
そうなったらなったで
心寂しいものだ
毎年かならずこの日
母の言う台詞は決まっていて
暑かったのよ!
冷房無かったし!
一緒に住んでいる間は
面と向かってなので
若干凹みつつ
いやでもべつにこの日って
頼んだわけじゃなし
春秋のきもちよい気候のなか
産んでくれてもよかったのに
などとひっそり思った
そういや妹たちも
真夏&真冬生まれで
やはり、暑かった!寒かった!
の攻撃を毎年受けている
今はメールになったから
少しだけその威力は
やわらいだものの
やっぱり一年にいっぺん
言ってやらんと気がすまないくらい
しんどいことだったのだろうと
想像できるから
素直に感謝の意を伝えている
そしてメールの時代は
子供に興味のあまりない
父をしてお祝いを
書き送るという習慣を
身に付けさせたのだった
こちらはわりと毎年
新しいネタを振ってきて
今年のはコマーシャルの
話だった
粉ミルクの会社の
ラジオCMで
「○月○日、○○医院で、
○○さん○○さん夫妻に
元気な女の子誕生!
おめでとうございます!」
というアナウンスの
バックに赤ん坊の
泣き声が聞こえる
リールテープの音源を
もらえたそうで
私も小さいときは
聞いたことがあるけど
レコーダーはとっくに
壊れて廃棄しており
もはや再生不能である
父のメールに
懐かしいね、でも
あの泣き声がほんとに
私なのかはわかんないね
と返信したところ
あれは共通の声で
ちかちゃんではありません
と返ってきてのけぞった
なぜじぶんだと思い込んでたんだろう?
よく考えりゃ当たり前のことなのに
これだけ齢重ねても
新鮮な驚きを得られる
この日を喜ぶとしよう