17年前の梅雨の時期に
保育園生活を始めたムスメ
彼女の使うロッカー、引き出し、
靴箱、タオルかけなどには
すべて「れもん」のマークがついていた
それは文字を読めない子供でも
どこがだれの持ち場なのかを
識別できるようにするための工夫で
マークは園のほうで決めたもの
ムスメの名前は「かれん」というので
先生はときどきふざけて
「さかもと れもんさーん」とムスメに呼びかける
あははは、ちがうよー、とムスメ
「ああ、ちがったちがった、
さかもと みかんさーーん」
がははは、ちがうってばー、とムスメ
保育園児にテッパンのギャグだった
なぜそんな懐かしいことを
思い出したのかといえば
同僚さんがランチどき、深いため息とともに
この春から幼稚園に移る息子の準備が
膨大な作業量だという話を
聞かせてくれたから
そもそも今の保育園に何の文句もないが
格式高い「あちらのおかあさま」の意向による転園
やはりどこにもその「マーク」の慣習はあるらしいが
決定的に違うのは
そのマークを各自で決めてくるうえに
園で様々に使うサイズとりどりのマークを1ダース
用意しなくちゃならない、ということ
見本で見せられたのが恐ろしく手のこんだ
パッチワークみたいなやつで
同僚さんは「もっと凡人のやつ持ってこいよ」と
心のなかでどついたそう
その話を聞いて即座に
「私、それなら満月にする。」と言ったら笑ってた
同僚さんの息子さんは現在
ぞうと恐竜にはまっているので
夜眠る前、恐竜図鑑を開いているときの彼を
あえて避け
まさに眠りに落ちる直前の少し朦朧としたところをつかまえて
「ねえ、マークなんにする?」
と聞いたら、案の定「ぞうさん」と答えた
しかし幼稚園で受けた注意のなかに
「キャラものはかぶったりするので
何かサブ的なものをつけてくれ」
というのがあり
なんでも、有名な黒いねずみが蔓延してるらしい
自分で好きに決めるっていうのが
そもそも破綻してるんじゃないか
と思いつつ
サブ的なものは「りんご」
に決まった
それ以来仕事をしていても
あたまの片隅にずっと
「ぞうさんとりんご」がこびりついているそうで
みんなで「手芸屋にいけば適当なアップリケがあるんじゃない?」
とか
「確かパソコンで作ってプリントできる熱転写シールがあるよね」
とか
アイディアを出し合った
同僚さんは入園式の日は
それぞれのつけてるマークをよく見て
自分たちの入るべきグループを判断すると
言っていた
満月の人がいたら絶対仲良くなります、だって
時間のかかる手仕事をさせることで
親の愛情をはかるみたいなの
私はほんとにつらかったな
ぶきようなハハだけど
ちゃんとあいしてるよ
あとひとつきで
無事にぞうさんとりんごが1ダース
完成しますように