現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

よしもとばなな「スポンジ」さきちゃんたちの夜所収

2018-03-05 08:34:25 | 参考文献
 三十代と思われる産休直前の女性編集者の話です。
 担当しているかつての流行作家(男)が行方不明になり、その男友達と作家のアパートを訪問します。
 その間に、かつての楽しかった三人の関係が回想されます。
 男性が二人でてきますが、二人はゲイの恋人同士で全体にノンセクシャルな雰囲気(本当は主人公は作家と一度だけ性的関係を持っているのですが、その部分も見事なまでにノンセクシャルに漂白されています)が漂います。
 女性作家が女性を主人公にして女性読者をターゲットにして書いた典型的なL文学(さらにこの本の場合女性装丁家、女性編集者も参加した完全に閉じた世界です)で、現在の児童文学の世界(特にヤングアダルト物)とはほとんど近接した位置にあると思われます。
 一読して、三十年近く前によしもとがデビューしたころとあまりに雰囲気が変わらずに、ぜんぜん作品世界や登場人物が成熟していないことに驚かされます。
 実際のよしもとはアラフィフなのですが、作品世界では三十前後の女性と少しも変わらないので、彼女のファンの若い女性たち(よしもとと同様の気持ちだけ若い人たちも含めて)にはたまらない世界でしょう。
 ノンセクシャルな男性友だちとの適度な距離感の友情を保つ一方、しっかりと結婚して妊娠もしている主人公は、若い女性たちの理想形だと思われます。
 よしもととそのファンが作る閉じた世界は、彼女の父親の吉本隆明と彼のファン(信者?)との関係と相似な感じを受けます。
 きっとよしもとは、50を過ぎても還暦になっても、こんな世界を再生産していくんだろうなという気が強くしました。

さきちゃんたちの夜
クリエーター情報なし
新潮社

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 村上春樹「色彩を持たない多... | トップ | グードルン・パウゼヴァング... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

参考文献」カテゴリの最新記事