現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

吉田 新一「十五年戦争期の絵本―My Choices」日本児童文学の流れ所収

2017-10-13 11:11:35 | 参考文献
 現在では、「アジア太平洋戦争」という呼び方が定着している戦争の、戦時中の絵本を紹介しています。
 決して、その当時を代表する絵本が網羅されているわけではなく、表題にもあるように講師の選択によって絵本が紹介されています。
 その選択とは、「満洲事変勃発から、アジア・太平洋戦争敗戦までの、いわゆる<十五年戦争期>に出版されて、時代の趨勢に流されることがなかった絵本を中心に、当時の模索する絵本の姿を追ってみることにします。」という趣旨によるものです。
 また、紹介の仕方も、聴衆(2005年に、国際子ども図書館で行われた、第二回児童文学連続講座のひとつです)とともに、絵本の実物を見ながら鑑賞するという形式だったようです。
 紹介された絵本及び作家や画家や出版社は、以下の通りです。

『ウタノヱホン:大東亞共榮唱歌集』朝日新聞東京本社 
 作詞・三好達治、西條八十、田中稔、古山省三、永倉直、砂川守一、
    百田宗治、與田凖一、池田嘉登
  絵・黒崎義介、横山隆一、耳野卯三郎、立野道正、清水良雄
『ニッポンノアシオト』百田宗治著/茂田井武畫 二葉書房 日本少国民文化協会作詞作曲
『ウミヘ』吉田一穂編/佐藤忠良畫 金井信生堂 
『ウシヲカフムラ』吉田一穗編/佐藤忠良畫 金井信生堂 
『ハナサキミノル』吉田一穂編/島田訥郎畫 金井信生堂 
『ウミノコドモ』大戸喜一郎詩/鈴木信太郎畫 大勝繪本杜 
『ヤマノムラ』國府貢一文/熊谷元一畫 教養杜 
『あの村この村』熊谷元一著 博文館 
『ヨイコノムラ』與田凖一詩/熊谷元一畫 農山漁村出版所 
『二ほんのかきのき』熊谷元一さく/え 福音館書店 
『たなばたまつり』 熊谷元一さく/え 福音館書店 (子どものとも 172号)
『かいこ』 熊谷元一ぶん/え 福音館書店 
『絵本信濃わらべうた』 熊谷元一絵・文  アリス館 
『ふるさとの昭和史―暮らしの変容』熊谷元一写真・文 岩波書店 
『山ノオモチヤ』瀧田要吉畫・謡 博文館 
『ムラノコドモ』渡邊哲夫文/佐藤今朝治畫 富士屋書店
『アフゲオホゾラ』徳永壽美子文/中尾彰装丁 正芽社 
  絵・長谷川毬子、川上四郎、林義雄、大石哲路、安井小弥太
<国民絵本>『海のこども』與田凖一詩/福與英夫、川島はるよ畫 博文館
<家庭絵本>『雪トコドモ』横井秋子詩 博文館 絵・広原長七郎、川上四郎、立野道正、金子茂二、川島はるよ、黒崎義介
『ペキンデミタコドモ』中尾彰畫と文 富永興文堂 『ジャワノヰナカ』小出正吾文/渡部菊二画 中央出版協會 
『フィリッピンの子供』石坂洋次郎文/鈴木榮二郎、野中勲夫、永井保画 岡本ノート出版部
『軍艦旗の行くところ:中南支海南島:童画報告』黒崎義介著 フタバ書院
『支那のこども』山本和夫作/高井貞二画 小學館 
『サルノアカチャン』近藤東文/彬全直畫 生活社 
『ブリアミ』藪田義雄文/安泰畫 中央出版協會 
『ツルノオンガヘシ』坪田讓治文/安泰画 中央出版協會 
『ハタラケハタラケ』サトウハチロー文/安泰畫 二葉書房
『たべるトンちゃん』初山滋作 金蘭社 
『ヒバリハソラニ』吉田一穗著/初山滋絵 帝國教育會出版部 
『店ノイロイロ』前島とも畫 博文館
『ムラノエウチヱン』西田稔文/川島はるよ画 正芽社
『童謠童画十五人選集』武井武雄編輯 鈴木仁成堂 
  詩・北原白秋、島木赤彦、百田宗治、浜田広介、サトウハチロー、水谷まさる、
    野口雨情、西條八十、巽聖歌、河井酔茗、多胡羊歯、サトウ・ヨシミ、
    葛原しげる、與田凖一、白鳥省吾
  絵・初山滋、鈴木信太郎、佐藤今朝治、黒崎義介、武井武雄、福與英夫、熊谷元一、
    川島はるよ、深沢省三、川上四郎、恩地孝四郎、小池巌、木俣武、
    村山知義、清水良雄
『ドウブツヱン』中山省三郎著/佐藤長生畫 帝國教育會出版部 
『カゼ』田崎春江文/秋吉秀彦画 綱島書店 
『コガモノタビ』奈街三郎文/藤澤龍雄畫 博文館 

 前述の趣旨にもありますように、「時代の趨勢に流されることがなかった絵本を中心に、当時の模索する絵本」が選ばれているので、戦時色のない(あるいは少ない)絵本が選ばれています(最初の絵本だけは、戦意高揚絵本の例として紹介されています)。
 戦時中にも、こうした芸術的であったり、生活記録として貴重だったりする良心的な絵本があったことを紹介しようとする講師の意図はよくわかるのですが、たまに出てくる戦時色の強い表現にも、作者たちの意図を好意的にとらえるフォローがいちいちなされていて、結果として当時の絵本作家たちの戦争協力に対して免罪しているようで、あまり好感が持てませんでした。
 また、冒頭で講師も触れているように、、当時は戦意高揚絵本が圧倒的に多かったわけですから、こうした「良心的」な絵本が、どういった位置づけで当時の子ども読者たちにとらえられていたかの説明が必要だった思われます。

絵本の魅力―ビュイックからセンダックまで
クリエーター情報なし
日本エディタースクール出版部

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 村中李衣「ラッパ ― ようこ... | トップ | 村中李衣「色紙 ― 平田先生... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

参考文献」カテゴリの最新記事