現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

鈴木武樹「角川文庫版J.D.サリンジャー「倒錯の森」あとがき」

2019-08-21 09:13:57 | 参考文献
 サリンジャーには「倒錯の森」という短編集は存在しなくて、この本に収められている四編は訳者の好みによってまとめられたのことです。
 他の記事にも書きましたが、想像するに、中編の「倒錯の森」では当時の一冊(現在ならば、活字を大きめにしてこれ一作だけで本にしたことでしょう)としては分量が足りないので、同じテイストを持った「ブルー・メロディ」をくっつけ、「ブルー・メロディ」にもチョイ役で登場する「ヴァリオーニ兄弟」と、「ブルー・メロディ」と同じ1948年作の「ある少女の思い出」を、さらにくっつけたというところでしょう。
 言い訳のように、サリンジャーの創作時期は、1940年から1942年を第一期、1943年から1948年までを第二期(つまり「倒錯の森」の次期)、1948年から1953年を第三期、1955年以降を第四期(1954年は発表作品なし)と分類されていると紹介していますが、やや我田引水的な感じがします。
 これは、作品の完成度、出版の形態、対人関係などから見ると、1940年から1947年を習作期(いろいろな形で、後の作品の原型になる作品を雑誌に発表しています)、1948年から1954年を出版期(長編で「キャッチャー・イン・ザ・ライ」、短編集で「ナイン・ストーリーズ」というベストセラーを出版して、有名作家の地位を確固たるものにしました)、1955年以降をグラス家サーガ期(有名になりすぎたために、わずらわしい世俗との関係を断ち切ることを、亡くなるまで続けます)と考える方が自然だと思います。
 また、作品の完成度と他の作品との繋がりから言えば、この短編集の収録順は発表順の「ヴァリオーニ兄弟」、「倒錯の森」、「ある少女の思い出」、「ブルー・メロディ」にすべきで、タイトルも「ブルー・メロディ」にした方が適切だったでしょう。

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