1990年に書かれた「豊かさの精神病理」(その記事を参照してください)の5年後の続編かと思ったら、前作がベストセラーになったことに味を占めた(著者だけでなく編集者や出版社も)のか、次々に似たような本を書いていたようで、この本も結構売れたようです。
しかし、前作がバブル期の人々が人間関係を避けてモノへ逃避している姿を、豊富な事例を紹介して鋭く切り取って見せたのに比べると、かなり物足りない内容になっています。
その理由としては、「やさしさ」をキーワードにして、従来の「やさしさ」(他者の気持ちを理解して共感する)に対して、新しい「やさしさ」(他者の気持ちに立ち入らない)に着目している点は優れていますが、前作に比べて実例が圧倒的に少なく、しかも対象者が前作と異なって経済的に恵まれている人たちに偏っている(第一例の女子高校生の家は共稼ぎ家庭なようですが、第二例はフェアレディZに乗っていた都庁に勤める公務員、第三例は裕福な家庭のモデルのような容姿の予備校生、第四例は裕福な妻に養ってもらっているハンサムな司法試験浪人、第五例は機械メーカーの専務の息子の元優等生、第六例は博士課程に留学している裕福な家庭のアメリカ女性、第七例は弁護士一族の元優等生です。)ことによって、その時代の雰囲気を十分にとらえられていないからだと思われます。
作者に商品性があるうちに本にして売ることを急いだたために、十分な実例がたまらないうちに出版したのでしょう。
さらに決定的なのは、前作が出版された1990年とこの本が出版された1995年の間にバブルの崩壊があって、人々の人生や生活への価値観が大きく変化しているにもかかわらず、そうした社会学的な考察が全くないことです。
そのために、単なる現象(著者の診療所を訪れる患者の症例)の後追いになっています。