現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

武田勝彦「『大工らよ、屋根の梁を高く上げよ』について」角川文庫版「大工らよ、屋根の梁を高く上げよ」解説所収

2019-08-26 09:30:54 | 参考文献
 「大工らよ、屋根の梁を高く上げよ」について、以下のようにシーモァの結婚の謎と、文章表現について解説しています。

<第一次集団VS第二次集団>
 シーモァとミュリエルの結婚がうまくいかなくなる理由(ご存じのように、六年後にシーモァの自殺で幕を下ろします(「バナナ魚にはもってこいの日」の記事を参照してください)について、それぞれが強い第一次集団(家族)に属していたためであるとしています。また、シーモァの結婚の動機を、当時シーモァがやはり強いと思われる第二次集団(軍隊)に帰属していたたために失った第一次集団(グラス家兄妹)の代償として、新しい第一次集団(結婚)に求めたとしています。前者に関してはその通りだと思いますが、少し違うのはたしかに二人の未熟さが破綻の原因の一つではありますが、もっと強い原因はそれぞれの第一次集団そのものにあった(シーモァの家族(特に両親)の無関心とミュリエルの母親の過干渉)と思えることです。また、後者に関しては、著者自身が認めているように、説明の根拠が不足しているように思います。

<メタフォリカルな表現>
 サリンジャーの文章表現は、初期短編の平明さから、しだいに洒脱なものに変わり、そして、隠喩を多く含んだ難解なものへ変化していっています。著者が指摘しているようにこの作品には、題名を初めとして様々なメタフォリカルな表現を含んでいます。それは、他の記事にも書きましたが、サリンジャー自身が、「作家志望者」から、「人気作家」へ、そして、「文章芸術家」へと、次々と変貌していったからでしょう。そ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 武田勝彦「『ズーイ』につい... | トップ | 武田勝彦「『シーモア―序論』... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

参考文献」カテゴリの最新記事