現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

辻原登「父、断章」父、断章所収

2016-10-23 17:57:32 | 参考文献
 社会党の地方政治家であった父の記憶について、ノンフィクション風に書かれた作品ですが、小説家ならではの巧みな脚色もかなり加味されています。
 メインのモチーフとして、「父親には息子を殺す権利がある」ということが繰り返し語られます。
 これは辻原にとって重要なモチーフらしく、それまでにも小説やエッセイに何度も書かれてきたようです。
 この「父親には息子を殺す権利がある」というモチーフは、児童文学(例えばワジム・フロロフの「愛について」など)でも大きなモチーフである「(精神的な)親殺し」の反語的な表現で、父親が息子にとって克服しなければならない障壁の象徴なのでしょう。
 それは、辻原が、過去には「父親を矮小化して表現してきた」と、語っていることからも明らかです。
 父の死後三十年以上が経過し、自分が父親が死んだ年齢を超えて、初めて等身大の父親に向き合えるようになったというのです。
 現代では「友だち親子」が増加して、子どもたちは精神的な「親殺し」をする必要がなくなって、だらだらした親子関係がいつまでも続くようになっているようです。
 それにつれて、児童文学でもこのことがテーマになった作品は減ってきています。

父、断章
クリエーター情報なし
新潮社

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