1970年にイギリスで出版されて、1972年に日本で翻訳が出た児童文学作品です。
1973年に大学に入学してすぐに、児童文学研究会の先輩に進められて読んで、衝撃を受けた作品でした。
今で言えばヤングアダルト物の範疇に入るのですが、児童文学研究会で賢治やケストナーの作品の研究をしようと思っていた私には、「こういう作品も児童文学なのだ]と目を開かされた思いでした。
主人公のペン(ペニントン)は一応中学生なのですが、一年落第しているので彼の16歳(夏には17歳になります)の春休みと彼にとっては最終学期になる夏学期(イギリスでは6月までのようです)が描かれています。
そのころの不良の象徴である長髪(日本でもそうでした)を肩まで伸ばして、酒やタバコは日常的にやり、古い漁船を操縦したり、父親の600CCのバイクでふっとばしたりするかなり豪快な不良ですが、根は友達思いで(親友のベイツは、ペンとは対象的に内気な引っ込み思案なタイプです)心優しいところもあります。
曲がったことが嫌いなために生き方が下手なので、いつも高圧的で禁止されている体罰(むち打ちです)も平気でする担任教師や警察に睨まれています。
私の持っている日本の本の表紙に描かれているペンは、長身やせギスで、いかにも日本の不良って感じですが、実際には体重が90キロ以上ある筋肉の塊のような体をしていて、スポーツ万能(中学のサッカーチームのキャプテンで、地区の水泳大会では400メートル自由形で優勝します)です(その点では、アメリカで出版された本の表紙(福武文庫版ではこちらが使われています)や挿絵では、忠実にマッチョなタイプに描かれています)。
そして、ここが作品のミソなのですが、こんな野獣タイプのくせに、ピアノは天才的な腕前なのです(本人は自分の才能に無自覚ですが)。
教師たちや警察や他の不良たちとのいざこざとともに、ベイツ(ふだんはダメですが、酒に酔うと天才的な歌手に変身します)との音楽活動やそれを通して出会った素敵な女の子(実際に付き合ってみるとそうでもないのですが)への憧れなども、しっかりと書き込まれています。
ラストでは、ピアノコンクールで優勝して、音楽学校の教師に認められて進路が決まったおかげで、ほぼ確定的だった少年院行きを免れます(このあたりは、訳者があとがきで書いているようにデウス・エクス・マキナ的ですが)。
なお、この本のオリジナルのタイトルは、PENNINGTON’S SEVENTEENTH SUMMERですが、私が持っているアメリカ版のタイトルは、PENNINGTON’S LAST TERMで、同じ本なのにややこしいです (アメリカや日本のタイトルの方が内容的にはあっていますが)。
作者のペイトンは、フランバーズ屋敷シリーズでカーネギー賞やガーディアン賞を取ったばかりで、そのころのイギリスの児童文学界では最も注目を集めていた作家でした。
この本にも、残念ながら翻訳されていませんが、続編が二冊あります。