1943年、サリンジャーが24歳の時に、「サタデー・イブニング・ポスト」に掲載された短編です。
1920年代のシカゴの退廃した雰囲気(アル・カポネがギャングの帝王として君臨した禁酒法時代)を背景にして、ポピュラー音楽業界(ジャズ、歌謡曲、リズムなど)に彗星のごとく現れたヴァリオーニ兄弟(兄が作曲家(ピアノの名手)で、弟が作詞家(大学の教師で作家としての優れた才能を持っています))の栄光と悲劇を、17年後に彼らを良く知る女性(弟の大学での教え子で恋人)の目を通して描いています。
現代の読者にとっては、芸術至上主義(しかも、作家(詩人、小説家)を、流行曲の作詞家よりも、比べ物にならないほど価値があるとしています)が鼻につくかもしれませんが、一度でも作品を書いた経験のある人間にとっては、非常に甘美な魅力を持った作品です。
兄の成功のために一時的に自分の夢を留保して協力する弟。
派手でギャンブル好きで自分の成功のために弟を手放さない兄。
兄がギャンブルをめぐってギャングともめたためにおくられた殺し屋に、兄と間違えられて殺された弟。
17年後、すっかり落ちぶれて住むところもなくなったが、弟の遺稿の長編小説(すでに完成されていたが清書(タイピング)されていません)をタイプして世に出そうとしている兄。
そんな兄を許して援助する弟の恋人と恩師。
ベタなストーリーなのですが、20代前半とは思えないサリンジャーの才筆(冒頭のコラムの利用による簡潔で要を得た状況説明、場面転換のうまさ、しゃれた会話、それらしいヒット曲の題名など)が、凡百な作品になることを救っています。