現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

沢木耕太郎「三人の三塁手」敗れざる者たち所収

2021-02-01 16:23:35 | 参考文献

 昭和33年に、プロ野球の巨人軍に集った、三人の三塁手の運命について描いています。

 一人は、もちろん長嶋茂雄。

 私より年上の世代にとっては、プロ野球のスーパースターというよりは、神様のような存在です。

 しかも、それは、その後に現れたスポーツ界や芸能界のスーパースターたちとは比べることができないほどの絶対神だったのです。

 私の父も、長嶋の熱狂的なファンで、高校教師の仕事をサボって、後楽園での長嶋の引退試合を見に行ったほどでした(消化試合の平日のデイゲームが超満員になりました)。

 私の高校時代の友人も同じく長嶋の熱狂的なファンで、同じ試合を見に行っています。

 私(ということは友人も)と父とは37歳違いなのですが、これだけ歳の違った男性ファンを等しく熱狂させたスーパースターは、他には考えられません。

 後の二人は、くしくも長嶋と同い年で、一人は長嶋の控えに甘んじて数年で引退し、もう一人は長嶋に追われて二塁手にコンバートされ、やがては他チームへと流れて行きました。

 引退後の二人の人生は対照的でした。

 一人は、現役時代の過去を忘れて実生活で成功します(プロ野球選手としては欠点であった、彼の優しさとか気遣いとかが、会社員としてはプラスに働きました)。

 もう一人は、現役時代を引きずったまま、水商売の世界を漂流します。

 作者の最大の特長である、取材対象への深い愛着が、この作品でも生きています。

 長嶋はもちろん、その他の二人にも、成功者と敗北者のへだてなく、深い共感(それは、同情というのではなく、もっと対象と同一化したものです)が読後にも残り、読み味をよくしています。

 

 

 

 


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