昭和33年に、プロ野球の巨人軍に集った、三人の三塁手の運命について描いています。
一人は、もちろん長嶋茂雄。
私より年上の世代にとっては、プロ野球のスーパースターというよりは、神様のような存在です。
しかも、それは、その後に現れたスポーツ界や芸能界のスーパースターたちとは比べることができないほどの絶対神だったのです。
私の父も、長嶋の熱狂的なファンで、高校教師の仕事をサボって、後楽園での長嶋の引退試合を見に行ったほどでした(消化試合の平日のデイゲームが超満員になりました)。
私の高校時代の友人も同じく長嶋の熱狂的なファンで、同じ試合を見に行っています。
私(ということは友人も)と父とは37歳違いなのですが、これだけ歳の違った男性ファンを等しく熱狂させたスーパースターは、他には考えられません。
後の二人は、くしくも長嶋と同い年で、一人は長嶋の控えに甘んじて数年で引退し、もう一人は長嶋に追われて二塁手にコンバートされ、やがては他チームへと流れて行きました。
引退後の二人の人生は対照的でした。
一人は、現役時代の過去を忘れて実生活で成功します(プロ野球選手としては欠点であった、彼の優しさとか気遣いとかが、会社員としてはプラスに働きました)。
もう一人は、現役時代を引きずったまま、水商売の世界を漂流します。
作者の最大の特長である、取材対象への深い愛着が、この作品でも生きています。
長嶋はもちろん、その他の二人にも、成功者と敗北者のへだてなく、深い共感(それは、同情というのではなく、もっと対象と同一化したものです)が読後にも残り、読み味をよくしています。