始まりに向かって

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翼のある蛇になる秘術・・「ホピの太陽」(2)

2014-07-26 | ホピ族



引き続き、北沢方邦氏の「ホピの太陽」のご紹介をします。
リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。

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          (引用ここから)

ホテビラ・・蛇の力の泉

桃やスモモの果樹園の緑の木立に囲まれ、ホテビラの村は荒廃したオライビと対照的に美しく、牧歌的であった。

荒涼とした岩肌の上に建設された他の村々と異なり、第3のメサの西の端の一段と低くなった土の丘に建設されたこの村は、大木の木陰のいくつかの泉が象徴しているように「母なる大地」の諸聖性の恩寵が支配している。

こころなしか、久しぶりに帰省するホピ族の友人シドニーの顔もなごんでいるように見える。

果樹園の終わったあたりから古びた石造りの家々が連なり、いくつものキバが家々を囲んで散在している。

私たちは友人シドニーの実家があるこの地、ホピの伝統派の最強の砦、ホテビラの心臓部に降り立ったのだ。

小さな城のような石造りの家の中は、静かでひんやりとした微風が裏口の方から入り込み、あたりの空気をこの上なくさわやかなものにしていた。

伝統的な髪形に編んだ白髪の上に赤いバンダナをした、極めて美しく品のよいシドニーの父は、ほとんど英語を話さないらしく、シドニーのホピ語に時々相槌を打つだけで、インディアンの伝統派の老人らしく、寡黙であった。

シドニーの母も古風なスペイン風肩掛けをした伝統的な姿で、これもほとんどおしゃべりをすることなく、黙って座り、時々息子の話にうなずいていた。

草原に続く小道を指さしながら、シドニーは「あれはスネークダンス(蛇祭り)のときの競走用の道で、少年の頃はよく走ったものだ」と、ホテビラのスネークダンスの思い出を語ってくれた。

「本当には「カモシカと蛇の儀式」と呼ぶのだけれど、16日間にわたって行われる儀式の最後の2日に、競争が行われるのだよ。

まだ日が昇らない早朝、あの砂漠の東の方に出発点があって、少年や若者は皆参加するものだ。

太陽が地平線に昇ると、長老の合図で一斉に走り出す。

砂漠の道を、裸足で7,8キロの距離を全力で走るのだ。

ちょうどあの辺に来ると、もう暑さと疲労で目もくらみそうで、最後にこのメサを駆け上がる時は心臓も破れるかと思うほどだよ。

優勝者はあそこの、ほら、スネークキバの中で、キバの首長から祈祷用の羽(ハポ)と「フルートの泉」の聖なる水の入った壺を、勝利の印として渡される。

それを自分の畑に持って行って、畑に聖なる水を灌ぐのだ。

優勝者の畑は来年の豊作が約束されると言われるから、みんな必死で走るのさ。

メサの上では村中の女が声援するし、「カモシカ祭祀」や「蛇祭祀」たちが、雷の音を象徴するブルローラー(雷鳴か牡牛の咆哮のような音を出す楽器)を鳴らして景気づけるし、それは大変なものだよ」。

「競争が終わると、今度は女たちがキバの屋根に置かれたカボチャやスイカの蔓やトウモロコシの茎を奪いあうのさ。

勝者が手にした蔓や茎は「蛇」の象徴で、それを手に入れて家に持って帰れば雨と豊作が約束される、という縁起物なのさ」

シドニーはまた、「村ではだいぶ前に「蛇氏族」の家系が絶えてしまったので、その関係氏族であるナミンハ家の「太陽の額氏族」が、スネークダンスを主催している」と説明してくれた。

スネークダンスはかつて多くのプエブロで行われていたらしいが、現在ではホピにしか残っていない。

多くの人類学者たちが指摘しているように、これはマヤやアステカの「翼ある蛇」の宗教儀礼と共通のものである。

ケツァルコアトルの名で知られ、龍の形で表象されるこのマヤやアステカの神は、生身の人間の犠牲で知られる彼らの宗教の血なまぐさいイメージとは逆に、非暴力的な友愛と共感の神であり、ケツァルコアトルの神殿だけはいかなる生き物の犠牲も受け入れられなかったという。

マヤの神話によれば、彼は「父なる太陽」と「母なる大地」との間に生まれた長子であり、この三者が「マヤの聖三位一体」として宇宙を支配している。

ケツァルコアトルは人間の優しい友であり、彼らの飢えを見かねて黒蟻の姿に変身し、赤蟻の巣からトウモロコシの種を盗んで人間に与え、人間に初めてトウモロコシの農耕を教えて、飢えから免れさせたともいう。

ケツァルコアトルはまた、「翼ある蛇」として、風や雲や雷雨を制御する神であり、農耕に不可欠の雨をトウモロコシ畑にもたらす。

平和の神であるケツァルコアトルはまた、性愛の神でもあり、ベトナム戦争中の白人ヒッピーたちの標語「メイクラブ・ノットワー」はそのままケツァルコアトルの標語としてもよいほどである。

ホピの神と言ってもよいこのケツァルコアトルの宗教儀礼と、ほとんど共通の神話的意味を、スネークダンスは担っている。

すなわち16日間にわたる儀礼は、必ず「カモシカ祭祀」たちとそのキバ・「蛇祭祀」たちとそのキバという一対によって行われる。

その秘儀の一つの頂点が第11日の夜執り行われる「カモシカの若者」と「蛇の乙女」の結婚の儀式である。

それぞれの結社から選ばれた少年と少女が、キバの中で儀礼的な結婚式を行う。

それは高山の動物「カモシカ」と地下の動物「蛇」の、トーテム的に象徴される、「父なる天」の力と「母なる大地」の力との結婚であり、それによるケツァルコアトル・・「翼(天)ある蛇(地下)の誕生の秘儀である。

その翌朝、すなわち12日目の朝、「蛇祭司」たちは、聖なる4方向に向かって蛇の採取に行く。

砂漠の中で彼らは猛毒のガラガラヘビ各種や巨大なブルスネークを素手で捕まえる。

よい心の人間を、蛇はけして襲わない。
あるいは恐怖心が疑惑を呼び、襲撃を招くといってもよい。

彼は蛇に優しく語りかけ、首のすぐ後ろを掴んで壺に入れる。

もし蛇の機嫌が悪い時は、じっと動かず、他の者がハゲワシの羽根で作った道具で柔らかに蛇の頭をなでる。

蛇はたちまち催眠術にかけられたようにおとなしくなり、言うことを聞く。

こうして40~50匹から多い時には60匹もの蛇が集められ、キバに持ち帰られる。

「蛇祭司」たちは蛇の身体を清め、油を塗り、美しく磨きあげる。

夜は瞑想の時である。

キバの梯子の穴に銀河がかかり、白鳥座の尾がきらめく時、祭壇の前の薄茶色の砂を蒔いた一画に、祭司たちは円陣を組んで座り、中央に蛇たちを放つ。

祭司たちは目を閉じ、手を隣り合った者の膝に触れ、身体の中の「地下の力」すなわち「蛇の力」が、身体の中の「天の力」すなわち「カモシカの力」と合体する瞬間を待ち受ける。

具体的にはそれはインドのクンダリーニ・ヨガの瞑想と全く同じ生理学に基づいており、脊柱の下部に当たる潜在エネルギー「蛇の力」を次第に上昇させて、脳を支配する「カモシカの力」と合体させるのである。

目を閉じて、祭祀たちは低く静かに歌う。

蛇たちはいわばその子守歌に酔い、祭祀たちの膝や砂の中で静かにまどろむ。

今こそ「蛇の力」と「カモシカの力」は合体し、万物をその友愛の絆の中で抱き留める至高の瞬間なのだ。

星々も土も人間も蛇も、「母なる大地」の子宮であるキバの始源の静寂の中で一体となって、永遠に目覚めたまままどろみをむさぼる。

これを涅槃と言わずしてなんと言うべきだろう。

4日間にわたる蛇たちとのこうした「行」の最後の日に、競争とスネークダンスが行われるのだ。

競争は東(太陽)から西(地下)へと走られることによって、「父なる天」の使信を「母なる大地」であるキバにもたらし、それを受けて、キバから地上の踊り場へと現れた祭司たちは、蛇と共に踊ることによって、この「第4の世界(地上)」に生きる人間たちの、雨と豊作への願いを、「父なる天」と「母なる大地」に伝達しようというのである。

広場の中央に、ハコヤナギの緑の小枝で作った、まるで能の作り物のような儀礼用の小屋の中に蛇たちを安置し、それを囲んで「カモシカ祭司」たちと「蛇祭司」たちが交互に踊る。

全身を灰色の塗料で塗り、あごと足首を白く塗り分け、白い祭祀用のスカートを着用した「カモシカ祭司」たちの低く唸る雷鳴のような歌に応えて、

緋色の羽を頭に、黒色の蛇の模様を染め付けた茶褐色のスカートを着用し、同色のモカシンを足に、そして全身を赤褐色に塗ったうえで、顔を黒に、胴と腕に稲妻模様を白く塗り分けた「蛇祭司」たちが、儀礼用の小屋から蛇を取り出し、一匹ずつ口にくわえて踊る。

この眩惑的な光景は、「メキシコの朝」に収録されているD・H・ロレンスのすばらしい文章「ホピ・スネーク・ダンス」にゆずる他ない。

今でもこのスネークダンスは、ロレンスが見た1920年代とまったく変わりなく、古い村々で行われている。


             (引用ここまで)


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