Negative Space

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エッセンシャルな笑い:『網走番外地』『網走番外地 望郷篇』

2012-08-15 | その他
 石井輝男の『網走番外地』『網走番外地 望郷篇』(1965年、東映)。

 モノクロ画面に雪景色がよく映える。さいはての土地。もともと何もないところへきて、一面の雪のせいでスクリーンから余計な視覚的要素が排除され、わわれれの視線はいやがうえにも人間という動物のエッセンシャルな生態だけに注がれることになる……なんていうとおおげさだね。

 ある種の極限状況(とくに後半)をコメディーの舞台に仕立ているが、わらいの質はカフカやベケットというよりあくまでヒッチコックに近い。

 手錠のままの脱獄を決行した南原宏治と道連れの高倉健が吹きさらしの雪原で一夜を過ごすシーン。体をさすりあって暖をとろうとするが、じゃれつく南原に健さんがほんきで気色わるがる。わらいのオブラートにまぶしてはいるが、そのさりげなさが逆にリアルな同性愛的描写。寝ている相手をわざわざ起こして寝床(?)から離れた場所に用足しにいくのもたのしい。健さんは大のほう。『三十九夜』のロバート・ドーナットとマデリン・キャロルは、トイレはどうしてたんだろう? これはだれもが抱く疑問。ゴダールの『カルメンという名の女』に下品なシーンがありましたね。

 あやうく言い落としそうになったが、暴走トロッコの場面も手に汗握るド迫力!

 なぜか世評高い三作目の『望郷篇』。シリーズ最高作に推されることも少なくないほど。トレンチコートでの殴り込み、杉浦直樹演じる結核病みのダンディーな殺し屋なんていうそれなりにたのしいディティールが色を添えてはいるが、出来は一作目と比べてもきわめて凡庸。おくんちのシーンはどうせ疑似ロケだろう。さもなければもうちょっと使いようがあったはず。