Negative Space

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泳げディーン:『マラソンの戦い』(1960年)

2012-08-29 | その他
 <ビバ!ペプラム>その4

『マラソンの戦い』(ジャック・ターナー監督、1960年)

 ディーン度☆
 入江度☆☆
 米満度☆
 内村度☆
 エコ度☆☆☆
 ホラー度☆☆
 
 ホラー(『キャット・ピープル』『私はゾンビと歩いた!』)やフィルム・ノワール(『過去を逃れて』『夕暮れのとき』)の巨匠として名高いターナーが西部劇(『インディアン渓谷』『法律なき町』)の名手でもあることは、残念ながらわが国ではほとんど注目されることがない(allcinemaのフィルモグラフィーを見てみたら、意外にもほとんどの作品が日本で公開されている!)。さらにこの人、キャリアの終わり頃にどさくさにまぎれて古代史劇映画も一本撮っているのだが、唯一の愚作との声もちらほら。複雑な心境。

 タイトルからわかるようにペルシャ戦争ものである。ギリシャ神話に取材した古代史劇は山ほどあるが、ギリシャの史実に基づいた作品はかならずしも多くないとおもわれるだけに貴重ではある(ミラー=スナイダーの『300』はその点でも有意義)。

 主演はスティーブ・リーブス、相手役にミレーヌ・ドモンジョと来て、キャメラがマリオ・バーヴァ。なぜかFINとエンドマークが出るし一瞬どこの国の映画かわらなくなるが、イタリア映画なのだった。

 本作が公開された1960年はローマでオリンピックが開催された年。とうぜんそれをあてこんだ企画なんだろう。オリンピュア競技大会でリーブスが槍投げの?チャンピオンになるところからはじまる。マラトンの戦いを記念してのちにマラソンがオリンピア競技に組み込まれたと言われているから、かれ自身はマラソン選手ではないんですね。さらに言うと、例の長距離走の描写は実にあっさりしたもので、むしろ水中作戦のくだりが目をひきつけます。「おまえは水泳部か!?」とおもわずつっこみのひとつも入れたくなったりするわけで。

 涼しげな水面のショットや水中撮影シーン(前回とりあげた『ヘラクレス』にも美しい水中撮影がありました)がふんだんに出てきますから、ロンドン・オリンピックは終わっても、いまの季節に鑑賞するのにぴったりです。そういえば『キャット・ピープル』にも有名なプールのシーンがありましたっけ。ありあわせの自然の要素を素材にして効率的に涼をとる(背筋を凍らせる)演出に長けてます。その点でターナーは『吸血鬼ノスフェラトゥ』の監督の後継者とも言えるでしょう。いずれにしても「エコ度」のポイント高いです。

 あと、最後にはリーブスの協力者になってアテネを救うことになるエルヴァイラふうの悪女がちょっとホラーっぽいかな。純白の衣裳着たブロンドのドモンジョに対する黒の女。いわば影とか闇を象徴する役回り。リーブスはこの二人のあいだを行ったり来たりする。ジャンルにかかわらずターナーの映画にはいつもこういう形而上学的ともいうべき図式が隠れている。