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まだまだつづくオフュルス・チクルス……
『歴史は女で作られる』(マックス・オフュルス、1955年)
企画が立ち上がった時点では、ジャック・ターナーがルドミラ・チェリナ(『赤い靴』『ホフマン物語』)主演で監督する予定であった。その後、監督候補として一時マイケル・パウエルの名前も挙がり、ユスチノフの役はオーソン・ウェルズが演じるという話も出ていたようだ。
『市民ケーン』にも比せられる複雑なフラッシュバックのみならず、総天然色のシネマスコープというチョイスそのものが当時としてはアヴァンギャルド。そもそもフランスでカラー映画が撮られるようになったのはほんの数年前のこと。シネマスコープに至っては、前年に『聖衣』が公開されたばかり。オフュルスは当初このフォーマットに抵抗を示した(ところどころでカッシュが使われている)。
フラッシュバックのひとつひとつが別の季節を舞台とし、別の色調に彩られるが(リストとの秋の別れはゴールドとイエロー……)、家屋全体にチュールをかぶせたり、何キロにもわたって道をペイントしてドミナントになる色を際立たせた。
オペラハウスのセットは、四階分の客席をもつ巨大なものだが、幅はわずか数メートル。サーカスの観客は生身のエキストラのかわりにシルエットを使っていたりするらしい。
D.O.A.状態のヒロインの生涯がフラッシュバックで語られる典型的なオフュルス映画。しかし、主役は演出家的役回りのユスティノフだろう。ドイツ、フランス、イタリア、アメリカ……各地をさまようヒロインは永遠の亡命者オフュルスそのひと。ババリア国王(身分違いの恋)の謎めいた台詞「3月には63歳になる……」は死を悟った映画作家の遺言か?
冒頭の質問ぜめのエピソードは同種のラジオ番組からアイディアを得た。「なんでも知りたがるこういう悪い習慣、神秘を前にしてのこういう不敬はおぞましい」。
同時録音にこだわった台詞は切れ切れにしか聞こえないこともあるが(トリュフォーによると「初見時には5分の1が聴き取れない」)、それも含めてリアリズム。
海外版のディスクには貴重なボーナスがたくさんついているらしいが、紀伊國屋書店版には何もなし。リーフレットもおざなりの極み。