![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/80/24cb6fd53ec4fe0a2588d8f3a306a033.png)
中島貞夫『暴力金脈』(1975、東映)
脚本は野上龍一と笠原和夫。おおよそ笠原が前半、野上が後半というイメージらしい。ほんらいコミカルなものを得意とする野上がハードスケジュールに根を上げて行き詰まり、近親相姦というシリアスなモチーフを持ち込んだ結果、前半と後半のギャップが目につく出来となった。中島は笠原の役割を「手伝い」程度の二次的なものと位置づけているが、笠原によれば、総会屋を「私兵」として「飼っている」銀行の体質を暴露するラストを書いたが、中島が「敵前回頭」して(「栗田艦隊」!)「つまらないものになっちゃった」。中島自身、銀行の体質を暴くことを主眼とすべき題材を社長の個人的な悪業に還元してしまった野上脚本の失敗を認めている。銀行に融資を仰いでいる手前、映画会社としては本来の形では企画を通すことができなかったということだろう。
弱小総会屋の松方が標的にする大会社社長(若山)の愛人(池玲子)が松方を呼び出し、社長のスキャンダルを暴露する。愛人は社長の実の娘であった。その証拠を綴った母親の手記に目を走らせる松方と、ウィスキーを煽った池が全速力で走らせる車の素早いカットバックがひとしきり続く。壁に追突して絶命する池。勝利を確信した松方の顔に光が漲る。総会当日、松方が動議を提出し、若山に退陣を要求、フランク・キャプラふうの大演説をぶつが、ライバルの有力総会屋(丹波哲郎)によって阻止される。大都会を俯瞰したヘリコプター撮影のショットに足を洗う決心をした松方の「すべてが茶番である」というボイスオーヴァーがかぶさって終わり。松方の片腕・室田と、利権にたかってくるマブダチのやくざ(梅宮)の子分・川谷が繰り広げる犬っころの喧嘩のような「代理戦争」が愉快。