Negative Space

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及川道子、吃驚変化之巻:『港の日本娘』

2012-12-03 | 清水宏
『港の日本娘』(1933年)。

 清水宏のサイレント作品。『泣き濡れた春の女よ』ふうのメロドラマ。舞台は横浜(ハマ)から神戸へ、また横浜へ。

 見どころは、なんといっても伝説の女優・及川道子。可憐なセーラー服姿から高島田の淪落の女へ。

 大柄で面長、濃い眉、強いまなざし。原節子ふうのバタ臭さがある。

 ほかの人物にもバタ臭いのが多い。脇に江川宇礼雄、井上雪子というハーフ俳優。役名もヘンリー(江川)とかドラ(井上)とかシェリダン燿子(この人もバタ臭い)とか。シェリダン燿子が男装のディートリヒみたいに二本指で敬礼してみせたり。やはりバタくさい斎藤達雄が及川道子のヒモ(というより飼い犬)のベレー帽かぶった画家役。あからさまに洋画のコピー。ただし及川道子の役名は砂子と和風。

 女子高生の及川道子が恋敵のシェリダン燿子を教会で撃ち殺そうとしたりするナンセンス。かのじょはそれで身を落とす。

 ロケ撮影がすばらしい作品だが、教会は表現主義というかアール・デコふうの抽象的なセット。礼拝室に入ってきた及川道子のロングショットからたたみかけるようにカットインして拳銃のアップ。銃弾が放たれたあと、同じようにたたみかけるように徐々に引いたショットに。

 ハマに戻ってくると、かつての親友ドラと結婚したヘンリーとのあいだにむかしの感情がよみがえる。

 ドラはヘンリーの赤ん坊を身ごもっており、赤ん坊の靴下などを編んでいる。及川がたずねてきた折、転がってくる毛糸玉をたどっていくと、レコードにあわせてチークダンスを踊っている夫と及川の足に毛糸が巻きついているというエロティックな演出。

 けっきょく及川が身を引く。

 キャメラはじつによく動く。川縁を歩く二人をとらえたトラッキング・ショット、日傘の女、窓枠越しのショット、ロケを活かした抒情的なロングショット。清水節が冴える。ラスト、風に舞う船出のテープがメロドラマ的なエモーションをいやがうえにもかき立てる。