Negative Space

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ムッソリーニ vs ハリウッド!!:『ベン・ハー』(1925年)

2014-02-02 | その他

 Viva! peplum! 古代史劇映画礼讃 No.28

 フレッド・ニブロ『ベン・ハー』(MGM、1925年)

 製作サミュエル・ゴールドウィン、主演にはラオールの弟ジョージ・ウォルシュの名前が挙がっていたが、結局ラモン・ナヴァロが演じた。

 イタリアで撮影された海戦と馬車レースのシーンでは、何隻ものの船が沈没し、おびただしい数の馬が死に、死者まで出た(いずれも演出はB・リーヴズ・イーソン)。レースシーンは42台のキャメラで撮影され、撮影後に生き残った馬は12頭(ワイラー版では9頭)のうち5頭のみ。煽りのキャメラの上を何頭もの馬が駆け抜けて行くド迫力映像が語りぐさに。

 エキストラ係のなかに若きウィリアム・ワイラーがいた。のちに自身が監督したヴァージョンでは、ニブロ版のレースシーンへの対抗意識むき出しで、撮影中はスタッフの前で毎晩この映画を上映していたと助監督を務めたセルジオ・レオーネが証言している。

 ワイラー版では、ミクロス・ローザの音楽をレースシーンではあえて鳴らさず、蹄の音、観衆の歓呼、刃つき車輪が主人公の車体を削る音を生々しく響かせてトーキーならではの演出をしていた。

 三度の映画化(最初は1911年)のなかでもっとも原作に忠実だとされる。ワイラー版との違いの若干の例をランダムに挙げる。

(1)ベン・ハーと再会したとき、メッサラ(フランシス・X・ブッシュマン)はそっけない態度をとるが、人目のない裏道に入った途端、旧友を抱きしめる。

(2)主人公はエステル一筋ではなく、メッサラの送り込んだ愛人に誘惑されそうになる。

(3)海戦勝利の立役者となり、奴隷船の舷側をよじ上るベン・ハー、船窓から覗く奴隷と目が合い、気まずそうな顔をする。

(4)キリストは鋸を引く手のショットによって登場し、水をあたえる場面でも手だけしか映さない。主人公らが去ると、手はふたたび鋸を引き始める。十字架の道ではロングショットで背中から上だけが短く映される。
 
 エトセトラ、エトセトラ……。

 カラーシーン(キリスト生誕のシーンなど)は後代の着色かとおもったら、二色方式の初期テクニカラーによって撮影されているらしい。三色方式のギラギラ感がなくソフトな感じ。

 レースでメッサラが負けるのがムッソリーニのお気に召さず、イタリアでは上映禁止の憂き目を見た。

小さいおうち:コッタファーヴィの『ヘラクレスの復讐』

2014-02-01 | ヴィットリオ・コッタファーヴィ


 Viva! peplum! 古代史劇映画礼讃 No.27 

 『ヘラクレスの復讐』(ヴィットリオ・コッタファーヴィ、1960年)


 『アトランティス征服』とほぼ同時に撮られ、同作と対をなすわれらが巨匠コッタファーヴィのヘラクレスもの。あちらではレグ・パークが主役を演じていたが、本作ではマーク・フォレスト。いずれ劣らぬ怪力スター。

 アメリカでは『ダヴィデとゴリアテ』というタイトルで通っているが、オーソン・ウェルズがサウルを演じる同名の作品とは別もの。とにかくタイトルがまぎらわしいのはイタリア製古代史劇映画の宿命か。

 日本では劇場未公開だが、かつて「日本におけるイタリア年」に開催されたフィルムセンターのイタリア映画大回顧展のプログラムに入っていた。ロッセリーニの『イタリア万歳』なんていう映画が満員札止めになる盛況ぶりだったが、この作品の回は、上映会場にほとんど人影そのものがなかった。

 オープニング。カメラが右上方にパンし、丘の上に仁王立ちするヘラクレスを仰角で捉える。滝をなめるティルトショット。雪原を横切るヘラクレスのショット。赤や緑のスモークがたかれていてサイケ。岩肌を伝って地中に下りて行くヘラクレス。火を吹くハリボテのケルベロス(「ワン、ワン!」)に出くわす。腕を刀で切って血を浸したパンを投げ与える。番犬をやっつけると、地面が揺れてもんどりうつ。

 このあと、電子楽器の奏でる不協和な旋律とともにムササビふうの空飛ぶモンスターが襲ってくるが、首を絞めて殺す。もっとあとの場面では、得意の首絞め技がグリズリー相手にふたたび炸裂する!

 手に入れたご利益のあるらしいレッドダイアモンドを神殿の巨像に向かって捧げると、くだんの宝石が巨像の額まで飛んでいって(「ピ・ピ・ピ・ピ・ピ…」)、額の穴にすっぽり嵌る。すると、巫女のシビラがホログラフィーみたいな半透明状で姿を現し、お告げを下す。

 チープ感満載の映像の中で、ヘラクレスが家庭を顧みない仕事(難業)中毒のパパとして描かれる。バーベキューパーティーのシーンでは折檻のために息子を庭の木に縛りつけるスパルタ親父ぶりを見せたかとおもうと、寝室で奥さんにマッチョな肢体をマッサージしてもらうみたいなほのぼの感あふれる夫婦の情景も。ふてくされて家の柱に八つ当たり、怪力で壊してしまったかとおもうと、ラストではくだんのマイホームのリフォームに大活躍する力自慢!

 ギリシャ神話の悲劇の英雄がそなえていたユーモラスでコミカルな一面(馬糞掃除の難業)が、ローマ神話ではさらにクローズアップされる。コッタファーヴィはこうした側面(コッタファーヴィによれば「ガリア的」な側面)に光を当て、きわめて人間くさい半神像を作り上げている。

 ギリシャ神話では宿命のライバルみたいな間柄の悪役、向こう傷のエウリートにブロデリック・クロフォード。イタリア製古代史劇映画は落ち目のハリウッド俳優をリサイクルするのが得意。女奴隷のアルチノエ(面長美女ワンディサ・グイダ)にヘラクレスを毒殺させようと図るも、ミニスカの白チュニカに目が眩んだグリズリーに襲われたところをヘラクレスに助けられたアルチノエ、逆にヘラクレスに恋してしまう。

 ラスト、エウリートに捉えられたディアニーラ(ヘラクレス夫人)が毒蛇の巣の上に宙吊りにされるサディスティックな拷問シーン。アルチノエ、恩返しのチャンスとばかりにエウリートにタックルをくらわせ、エウリートもろとも毒蛇の餌食となる。めでたしめでたし。

 その他のみどころ。

 ディアニーラが間違って呼び出したケンタウロス、ディアニーラをさらっていこうとするも、ヘラクレスの放った矢に倒れる。緑まぶしい野を半径5メートルの円をなす鮮血に染めてそのまんなかで息絶えるケンタウロスをとらえたロングショット。

 あるいは、神殿を破壊しにいく場面で、キャメラを転倒させた極端な仰角ショットでヘラクレスの狂気を演出。