Negative Space

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呪われた傑作テレビドラマ?:『ヘヴンズストーリー』

2012-08-10 | その他
 瀬々敬久の『ヘヴンズストーリー』(2010)。

 4時間半の大作。殺人事件の遺族である少女。犯人は死んだので、復讐もできない。どうすればじぶんの気持ちがおさまるのか。同じく殺人事件の遺族である男をはじめ、こころにふかい傷を負ったいろんな人物が交錯しあいながらからむ群像劇。

 タイトルのついたチャプター。劇画ふうの突飛なキャラクターと状況設定。じぶんはくるしいんだよお、つらいんだよお、と涙ながし絶叫する人物たちをデジタルカメラがアップで追う。つまり、テレビドラマの文体で撮られた劇場用映画。

 いまどきのテレビドラマ、これくらいゴージャスな映像はめずらしくないし、テレビシリーズとして発表されていれば、野心的な傑作として歴史にのこったにちがいない。(ただし、呪われた傑作におわった可能性は大きい。)

 人物設定に無理がありすぎるせいか、あるいは人物のほうからおしつけがましいまでにじぶんのこころのうちをぶちまけてくれるせいか、人物に謎というか深みというものがない。例外的に興味を抱かされるのは、海島という人物の息子くらい。キャラの設定にしろ、演技にしろ説明的すぎて、逆にあらかじめ感情移入を禁じられているようなところがある。

 廃墟のつかいかたといい、人形芝居=舞踏のつかいかたといい、死のシーンと誕生のシーンのカットバックといい、えらく紋切り型である。(ただし廃墟の団地も人形芝居も、ヴィジュアル的にはすばらしい)。柄本明が親族に死なれて涙流したりといったような、なんどもみたような既視感のまといつく映像も随所に。

 同じトラウマもの、ヒアアフターものとしては、長い尺といい、青山真治の『EUREKA』の向こうを張ろうという意識が勝ち過ぎたのか、ぎゃくに『EUREKA』を想起させる要素が多すぎる結果となってしまった。冒頭のナレーションからすでに悪い予感がしたのだが、案の定、ラストでヒロインの宮凬あおいふうアップが出てきたりする。

 いろんな材料をぶちまけてあれこれ問題提起をしておいて、さいごの舞踏とかのじょのアップですべて納得しろと言われても無理な相談である。

 瀬々監督には、ぜひテレビでじっくりセルフリメイクしてほしい。