Negative Space

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革命前夜:『忍びの者』『「粘土のお面」より かあちゃん』

2014-08-27 | 中川信夫


 階級闘争史観映画二題。featuring 伊藤雄之助


山本薩夫『忍びの者』(1960年、大映)

 左方向への長い移動撮影が地面を這っていく武者を追う。戦死した武者にたかるハイエナを一括する雷蔵のアップ。

 天正元年、信長が朝倉義景・浅井長政連合軍を姉川でうち破る。伊賀のかしら百地(レーニンふうスキンヘッドの雄之助)を囲み、忍者らが膝を詰めている。このあと信長が攻めるのは上杉か家康か? 否、将軍家だ!!
 
 原作は「赤旗」に連載され、山本が演出したばりばりの共産主義的エンターテインメント映画。荒唐無稽なだけのそれまでの忍者もの(自雷也とか)にリアリズムもちこんだところが革新的と評価されたようだ。エロ=グロ=ナンセンスの味わいもそこそこ。

 いつも懐に猫を抱いている信長は城健三朗こと若山富三郎。伊藤は伊賀のもう一つの勢力のかしらでもあり、二つの人格を使い分ける漫画ふうの演技。雷蔵扮する五右衛門は少々鈍感。

 

 中川信夫『「粘土のお面」より かあちゃん』(1961年、新東宝)

 中川が自作ベスト3に入ると断言するプロレタリア映画の佳作。ドラマらしいドラマは起こらず、夜逃げに至るまでの長屋の貧乏所帯の暮らしを坦々と描く。父親が浪花節うなるのに茶々入れながらみんなで耳澄ましたりする場面に庶民の小さな幸福というやつを見る。自転車を盗まれたことを知ってパニックに陥るも、一瞬後には今川焼かなんか旦那にうれしそうに薦める望月優子。檻の中の動物めいた風貌とたたずまいの伊藤。最後に代々の職業(ブリキ工)に従事するエリート意識捨てて土方に転じるふんぎりをつけ(職業選択の自由)、一家にさわやかな笑顔が広がる。ラ・マルセイエーズの調べが教師(北沢典子)から生徒(二木てるみ)、さらに警官(宇津井健)へと口づてに広がっていき(革命の予感?)、夜明けの隅田川をとらえた大ロングの俯瞰で閉じられる。北沢が郷里の職場に転勤するのは宇津井と別れたせいなのか?などと穿ってみる。

 隣人のキャバレー勤めの娘をだまくらかす自称富豪のチャラ男(毛皮のコート、グラサンの日本人)。娘の親に How are you? 長屋の中を覗き込みつつ、Well, well, a dirty little house, it smells so bad...

 北沢の演技力は群を抜いていたと中川は絶賛している。あくまで新東宝で(笑)との但し書きはつくが。

 長屋の場面ではかなり低いアングルから畳の人物を見上げたショットが多い。加藤泰のローアングルは中川の映画に影響されているようだ。