Viva! Peplum! 古代史劇映画礼讃 No.18
『クレオパトラ』(ヴィットリオ・コッタファーヴィ、1959)
「ローマの歴史でなお私の心を打つのは、偉大さという感情だ。“小さな”人間たちは早々に消え去り、ほとんどいなくなった。<善>であろうと<悪>であろうと、巨人しかいないのだ」(ヴィットリオ・コッタファーヴィ)
ジョゼフ・L・マンキウィッツの超大作に先駆けること数年、コッタファーヴィが手がけた異色のクレオパトラもので、コッタファーヴィ古代史劇映画の最高作とされることが多い。
紀元前32年。ローマの連隊長クリーディオがアレキサンドリアに乗り込み、アクティウムの海戦を避けようと画策するも、歴史の運命を変えることはできなかった……。
開巻、波打ち際で馬を駆るアラブ服の男たちが激しく剣を交えている。瀕死の男が駆け寄ったクリーディオに何ごとかを囁いて息を引き取る。アントニウスの名が聞き取れる。紺碧の空を背景に、白や黒の馬が波打ち際に立ち尽くしている。
通りでアントニウスのパレードに行き会わせた後、酒場で派手な喧嘩に出くわし、陽気なグラディエーターのゴタルゼと意気投合するクリーディオ。グラディエーターの訓練場では弓の腕前を見せつけ、意地悪な訓練士のイモーティオをぎゃふんと言わせる。
夜、こびとに導かれ、クレオパトラの宮殿に侵入。真っ青な盾を手にした護衛たちに捕えられ、クレオパトラの前に引き出される。クレオパトラは壁に象嵌されたマスクから目だけを覗かせている。
奴隷市場でこびとが大柄な美女を買おうとしているが、店のおやじから背丈に見合った少年を代わりに薦められる。クリーディオとゴタルゼが話しながら歩いてくる。若い女が店のナイフをくすね、売り物の少年の縄を解いて逃がす。クリーディオが捕まえ、追って来た店の主人から2ターレスで買い取る。
クリーディオが酒場で食事していると、先ほどの女マリアンネが入って来て、別室に連れ出す。入れ替わりにゴタルゼが店に入ってくる。ステージには赤いベールから目だけを覗かせたダンサーが登場し、ベールを脱ぎ捨てて扇情的なベリーダンスを披露する。別室のクリーディオと幾度かカットバック。部屋から出ようとするクリーディオがステージのダンサーの姿を認め、コインを投げると、ダンサーはそれに応えて誘惑的な眼差しを投げてよこす。マリアンネが嫉妬の眼差しでこの様子を見守っている。
酒場の客たちが派手な喧嘩を始めたのを口実にダンサーは庭に逃れる。クリーディオがこれを追いかけ、夜の木陰で熱っぽい会話を交わし、接吻する。酒場の中では、喧嘩した客たちは何ごともなかったかのように陽気に騒いでいる。酔った客にちょっかいを出されたマリアンネをゴタルゼが救い、酔漢を窓から放り投げ、外にいたクリーディオも酔漢に一発見舞う。ゴタルゼがクリーディオに兜を放り渡し、クリーディオは部下とアントニウスの宮殿へ向かう。
夜間の山上。焚き火の側でオクタヴィヌスが側近と話し込んでいる。宮殿のクリーディオとアントニウスにカットバック。
アントニウスが浴室(??)のクレオパトラを訪ねる。ピンクのベールの前に緑と赤の布を纏った黒いマネキンのようなものが立っている。そばに青い布をかざした女奴隷が控えている。デ・キリコのある種のタブローみたいなシュールな空間。クレオパトラの姿は相変わらず見えず、エコーを効かせた声だけが響いている。
青い海をバックにクリーディオとベリーダンサーが情熱的に言葉を交わすシーン。
宮殿の外でクリーディオとアントニウスが話している。宮殿内では、背中を向けた玉座のクレオパトラに側官がなにやら進言しているところ。キャメラが正面に回ると、なんとあのベリーダンサーではないか。側官の言葉に耳を傾けるクレオをアップでとらえつづけるキャメラ。ついで宮殿の外の二人へ、そしてふたたび宮殿内にカットバック。壁に開けられた穴から二人の会話がクレオパトラらに盗聴されていた。
夜の通りを賊が影のように走って横切る。クリーディオと少年が歩いてくる。人の気配を悟るクリーディオ。闇の中で取っ組み合いが始まる。助けを呼ぶ声にゴタルゼが駆けつけ加担、賊を撃退する。
酒場で手当を受ける二人。クリーディオを甲斐甲斐しく介抱するマリアンネがクリーディオに思いを打ち明ける。クリーディオに抱きつくマリアンネ。
ひょろ長いシュロが一本立つ荒れ地。イモーティオとその配下の者らの襲撃を受けたクリーディオ、ゴタルゼ、少年。洞窟に立てこもって応戦。
夜、女奴隷と外出するクレオ。赤いステージ衣裳を黒いベールで隠し、マリアンネを訪ねていく。
宮殿で舞踏を鑑賞するクレオ。測官がかしずく。こびととローマ兵が入ってきて、何やら耳打ちする。
洞窟にカットバック。クリーディオらが寝入っていると、再び襲撃が始まる。洞窟の中でのイモーティオとの一騎打ち。少年が矢に当たって絶命。クリーディオは相手の眼に傷を負わせるも、捉えられる。縛りつけられ、イモーティオに矢で射られそうになるも、ローマ兵が救出に来る。
クレオがクリーディオを訪ねてくる。クリーディオは帰るクレオを尾行し、正体を突き止める。捕えられるクリーディオ。
海岸を引き連れられて行くクリーディオ。こびとがマリアンネとタゴルゼにこれを報告。舟で連行されるクリーディオ。タゴルゼは岩場に待機する仲間たちに指示して舟を追わせる。潜行する泳ぎ手たち。水中での戦い。救出されるクリーディオ。一方、マリアンネとこびとは連れ去られ、拷問にかけられる。石の寝台に縛り付けられたマリアンネに石の蓋がなんども覆いかぶさる。「クリーディオの居場所を吐け」とイモーティオ。
クリーディオはオクタヴィアヌスの陣営に連れて行かれる。オクタヴィアヌスになにごとか説きつけるクリーディオ。
丘の頂きに騎乗したアントニウスをとらえたダイナミックな仰角のショット。出陣のとき。両陣営から騎馬隊が出撃する。クリーディオはなおもオクタヴィアヌスの説得をつづける。両陣営をなんどもカットバックするキャメラ。「歴史はすでに書かれているのだ」と、オクタヴィアヌスは説得に応じない。剣を投げ捨てるクリーディオ。
アントニウスがクレオパトラを訪ね、永久の別れを言い渡す。人生を嘆くクレオ。宮殿を出て、八頭立て馬車でいずれへか出向く。テラスから恋する女の後ろ姿をこれを最後と見守ったアントニウスは、側近のドミツィアーノに向かっておもむろに自害の意志を告げる。翻意するよう説くドミツィアーノ。「静かにしたまえ」とアントニウス。鳥の囀りが聞こえている。
戦火さめやらぬ荒野のただなかを、猛スピードで八頭の白馬を駆る赤い服の女を捉えたロングショット。シュールにして悲愴美ただよう図。
オクタヴィアヌスの司令部に単身乗り込むクレオ。顔が半分影に隠れている。しばしオクタヴィアヌスとの切り返しによる会話がつづく。背後の帳を開けてクリーディオが入ってくると、室内に光が満ち、クレオの顔の影が消える。
馬車で宮殿に戻り、アントニウスの亡骸と対面、涙を流すクレオ。
イモーティアが民衆を宮殿に連行し、つぎつぎに処刑している。マリアンネを脅し、熱した剣で刺し貫こうとしたところで、間一髪駆けつけたクリーディオの矢に倒れる。つづいてオクタヴィアヌスの軍が入城、玉座で眠るように息絶えているクレオパトラを発見する。
砂漠を行くクリーディオ。タゴルゼらと別れて一人別の道を行こうとすると、白いベールのマリアンネが追ってくる。二頭の馬が並んで道を続ける。タゴルゼらは別の方角へ去って行く。
FINE
昼と夜、二つの顔をもつクレオパトラにブエノスアイレス出身のリンダ・クリスタル。『アラモ』でジョン・ウェイン、『馬上の二人』でリチャード・ウィドマークと共演している。
虚構の人物クリーディオにエットーレ・マンニ。アントニウスにジョルジュ・マルシャル。『剣闘士の反逆』でも共演していた二人。こびとのサルヴァトーレ・フルナーリもコッタファーヴィ古代史劇映画の常連。いつもながらのきびきびしたコメディーリリーフぶりが爽快。
音楽にレンツォ・ロッセリーニ。リッカルド・フレダの『スパルタカス』などの音楽も手がけ、その作風は「レスピーギ的」との評もあるが、兄の『ドイツ零年』のスコアをたしかジャン=リュック・ゴダールが「殺人的」とコメントしていた。
サスペンスフルなカットバックが効果的に使われている。セルジオ・レオーネとの類縁性を感じる。
カラリストとしての面目も躍如。プッサンやジャック・ステラのタブローになぞらえる批評家がいるのも宜なるかな。
「『クレオパトラ』のマルクス・アントニウスやクレオパトラやオクタヴィアヌスは、背景に配されていて、物語の主役ではない。これは、ラストのマルクス・アントニウスとオクタヴィアヌスの戦いをやめさせようとする若い連隊長のお話だ。かれはできるかぎりのことをする。複数の陣営を取り持ち、マルクス・アントニウスに正体を知られないように(かれの任務は厳重秘密だから)会いに行こうとする。これはいってみれば“諜報機関”の作戦なのだが、成功には至らない。というのも、最後に戦争が起きてしまうからだ。つまり、これは別の側から見た歴史、ラストのローマ人同士の殺し合いが起こらないよう努力した者たちの視点から見た歴史なのだ」(ヴィットリオ・コッタファーヴィ)
この映画で石の拷問がありますが、このような拷問は実際あったのでしょうか?存在すれば何という名称でしょう?
因みに似たようなシーンを他映画でご覧になったことはございますか?
質問ばかりで申し訳ありません。お時間がありましたら、御回答お待ちしております。