Negative Space

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心境小説+ネオレアリズモ+ヒッチコック:『蜘蛛の街』

2012-08-05 | 鈴木英夫
 鈴木英夫の『蜘蛛の街』(1950年、大映)。

 鈴木英夫の二作目。宇野重吉と中北千枝子の若夫婦。たがいに「ろくちゃん」「つるっぺ」と呼びあう。おさない息子がいて、宝物のようにかわいがられている。島尾敏雄か葛西善蔵かなんかの小説に出てきそうなつつましい一家。

 あるいはデ・シーカとかピエトロ・ジェルミの世界をおもわせなくもない。とくにかれらの住む団地とその周辺は、同時代のイタリア映画でよくみるのとそっくりな風景だ。団地に隣接する土手とか子供がいつも遊んでいる建設現場の描写がリアル。このへんはセミ・ドキュメンタリーふうのスタイルで注目された監督ならではのタッチが光る。

 勤めていた会社が倒産した夫はサンドイッチマンになり、ひたすら繁華街を歩きまわっている。昭和の東京の街頭のようすがなまなましくキャメラにおさめられていく。

 犯罪組織がかれの姿に目をとめ、スカウトする。小市民が犯罪にまきこまれるというおなじみのヒッチコックふうサスペンス・ドラマ。歓楽街の描写や団地周辺の逃走場面のヴィジュアルがたまらなくノワール。

 犯罪組織のボスが小心な常識人だったりするのも妙にリアルで、血気にはやる手下を始終いさめていたりするのが微笑ましい。三島雅夫のキャラをうまく活かしてる。『東京物語』は翌年の出演作。

 音楽に伊福部昭。タイトルバックの音楽がいきなり『ゴジラ』(1954年)そっくりでびっくり。そのほか、美術に木村威夫がクレジットされている。