Negative Space

日本映画、文語文学、古代史劇映画、西部劇、フィルムノワール、hip-hopなど。

ディクションは女優の武器:『信子』

2012-08-03 | 清水宏
 清水宏の『信子』(1940、松竹)。

 地方出身の教師・信子(高峰三枝子)が東京の女学校に赴任するが、理事長の娘である問題児(三浦光子)との確執に悩む。画面に映る男といえば、最後のほうに出てくる理事長と寮に忍び込む泥棒(日守新一)くらい。

 赴任早々、きつい訛りを直すよう校長に言われるものの、何か言うたびに語尾につい「ケ」とつけてしまい、そのたびに口をおさえるというアクションがくどいくらいに反復される。『簪』でも似たタイプのギャグがあった。

 にもかかわらず、その後の高峰、えらく早口のべらんめえ調?で押し通している。このへんいい加減だが、切れのいいディクションが耳に心地よい。とにかく高峰の表情が自然で生き生きしている。あのきつね目が閃くように何度も光るのが妙にエロティック。

 清水宏のトレードマークのひとつと言えよう長い横移動が何度も使われる。ハイキングのシーン、行方不明になった三浦光子を同級生たちが捜してかわべりを歩くのを俯瞰でとらえた移動撮影がとくにいい。陽光が水面に反射してきらきらしている。

 ガス自殺をはかった三浦光子の長い告白は、横たわる三浦を彼女の頭頂からとらえたワンショット。布団をかぶった三浦の表情も、傍らで聞いている高峰の表情も見えない。その後、三浦が画面に一度も登場しないことも含めて、洗練された演出だ。

 思いっきりシンプルな話だが、さればこそ活きる清水調。