Negative Space

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1874年のアメリカ式生活:ダグラス・サークの西部劇『アパッチの怒り』

2016-05-31 | その他




 西部瓦版~ウェスタナーズ・クロニクル~ No.49

 ダグラス・サーク『アパッチの怒り』(1954年、ユニヴァーサル)の巻

 サーク唯一の西部劇。サークのファンの評価は別れるが、擁護派のあいだには「サークのもっとも美しい作品の一つ」という声さえある。

 メロドラマの巨匠のフィルモグラフィー中では異例の作品だが、サークはアメリカに渡って以来ずっと西部劇を撮りたいと願っており、本作の企画に飛びついた。セットに作り込まれた人工的なヴィジュアル世界で知られるサークだが、意外にもロケを好んでおり、全篇がユタ州その他でのロケ撮影。現地の先住民をエキストラに起用し、先住民の儀礼をリアルに描いている。

 冒頭は死に行くコチーズが二人の息子にじぶんの推進した白人との和解を実現させるべく遺言を残す場面。コチーズを演じているのはすでに『折れた矢』(デルマー・デイヴィス監督)および『アパッチ峠の闘い』(ジョージ・シャーマン監督)でこの名酋長を二度まで演じているユニヴァーサルの看板スター、ジェフ・チャンドラー。先住民のエキゾチックな風習を際立たせた滅法美しいシーンだ。

 およそ西部劇らしくないオープニングであり、むしろファミリー・メロドラマ的な筋書き(三角関係における兄弟の確執)を予告する。

 女性のキャラクターに花を持たせているのもサーク的だ。水浴するバーバラ・ラッシュの背中に父親に打擲された傷跡を見つけたロック・ハドソンが傷跡を指で愛撫する場面はメロドラマ的な味わいにみちた名場面。なお、バーバラ・ラッシュは『自由の旗風』でふたたびハドソンと共演している。

 本作は四台のカメラを用いて3D作品として撮影され(ただし2Dで公開された)、3D映えするように画面手前に木の枝などを配しているショットが多く、アクションシーンではキャメラの方にものがさかんに飛んできたりする。

 ラディカルな先住民をネガティブに描く白人寄りの視点ゆえ、イデオロギー的には反動だが、『サーク・オン・サーク』のジョン・ハリデイによれば、両者の板挟みになって苦しむ主人公はいかにもサーク的などっちつかずの人物の典型(ハドソンは作中で先住民の衣裳と騎兵隊の征服とをとっかえひっかえしている)。

 サークがハリウッドで撮ったメロドラマ群が、異邦人の目から見た1950年代の「アメリカ式生活」についての人類学的観察であるのとどうよう、本作も1874年のアメリカのいちコミュニティについてのドキュメンタリーであるといえよう(そのいずれにおいても色彩という観点からのエキゾチスムが強調されている)。

 脚本ジョージ・ザッカーマンと撮影ラッセル・メティとはいずれも初のタッグとなる。